| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) H01-07  (Oral presentation)

イワナの稚魚の流下回避:平常時の流下を軽減する行動形質と形態形質の組み合わせ
Combination of morphological and behavioral traits to reduce downstream displacement under ordinary flow condition in juvenile char

*山田寛之, 和田哲(北海道大学)
*Hiroyuki YAMADA, Satoshi WADA(Hokkaido Univ.)

遊泳能力の低い河川生物や、滝などの上流に生息する魚類では、自身の生息流域への存続が水流による流下リスクによって常に脅かされている。流下リスクは増水時に高まるため、従来の多くの研究が増水の影響に注目してきた。しかし、流下リスクは平常時にも存在し、長期間安定して流れに脆弱な個体を流域から除去し続けるだろう。この状況における進化の結果、河川動物は平常時の流下リスクを回避・軽減する形質を備えているかもしれない。本研究ではイワナの稚魚を対象に、平常時の流下と、形態形質(体サイズ)および行動形質(着底行動)の関係を検証した。
北海道南部の黒羽尻川で採集した稚魚を用いて、北大付属七飯淡水実験所の人工水路で平常時の流下を再現する野外実験を実施した。さらに、野外実験と同一個体を用いて、15℃恒温室内での行動観察を行った。
行動観察の結果、本種の稚魚は着底行動を示す個体(84%)と示さない個体(16%)に大別できることがわかった。野外実験の結果、 (1)着底行動を示す個体の流下発生率は、着底行動を示さない個体よりも低かった。さらに、(2)流下が発生した場合の流下距離は、着底行動を示す個体では大型個体ほど長くなり、着底行動を示さない個体では小型個体ほど長くなった。
(1) は、着底行動には流下発生を回避する機能があり、平常時の流下リスクに対処する上で特に重要であることを示唆する。本研究で着底行動が高頻度であったことは、平常時の流下リスクへの対抗進化を反映しているのかもしれない。また、(2) は、形態形質と行動形質の機能が補完的に協働して流下距離を軽減することを示唆している。このような形質間の機能的な相互作用は、捕食リスクへの対抗適応を研究する分野で「形質補完(trait complementation)」と呼ばれている。本研究は、流下リスクに対する形質補完を明らかにした初めての研究である。


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