| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) H02-01 (Oral presentation)
種分化が完了する前には、種間交雑が起こりうる。種間交雑の帰結は、種の融合(種分化の逆行)、雑種系統の絶滅、雑種集団から親種の再種分化と多岐にわたる。加えて、再種分化は両親種が再出現する場合と、片方の親種のみに回帰する場合がある。近年、いくつかの分類群において種間交雑を経験した後に片方の親種のゲノムが排除され、もう一方の親種に回帰した痕跡が同定されつつある。しかし、野外において、どの程度の速度でゲノムの排除が進むのか、また、どのような生態的・遺伝的要因が排除に寄与しているのかは不明である。我々は、2011年に形成されたイトヨGasterosteus aculeatusとニホンイトヨG. nipponicusの雑種集団に着目し、交雑直後から9年間にわたるゲノムの変化を調べることで、これを追求した。両種は約70万年前に分岐し、地理的隔離、性的隔離、雑種不和合などの生殖隔離が存在することが知られている。しかし、2011年の東日本大震災時の津波によって地理的隔離が崩壊した結果、両種の雑種集団が出現した。9年間の検体の集団ゲノム解析を行なった結果、交雑後の最初の数年でニホンイトヨのゲノムは排除されイトヨへの回帰が生じたことを見出した。さらに、ニホンイトヨのゲノム排除の速度を全ゲノムレベルで比較したところ、地理的隔離、性的隔離、雑種不和合に寄与する遺伝子座が存在する染色体は、他の染色体よりも速く排除されたことを見出した。一方で、新規生息地への環境適応が、この排除に寄与した証拠は見つからなかった。以上の結果から、交雑後の純系種への回帰は数世代で起こりうること、複数の隔離障壁が異種ゲノムの排除に寄与することが分かった。他の雑種集団との比較や、人為的な環境下で再現実験を行うことで、種間交雑の帰結の予測につながると考えられる。