| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) H02-03  (Oral presentation)

姿勢の安定化と流体抵抗への適応性で見る腹足類の殻口の傾きの機能的意義の考察
A functional morphological study of aperture inclination on gastropod shells based on both postural stability and drag force

*荒木周, 野下浩司(九州大学)
*Amane ARAKI, Koji NOSHITA(Kyushu University)

腹足類殻形態の多様性には形態空間中での不均一な分布が知られている.この腹足類殻形態における不均一性は捕食者への防御や漂流の防止,軟体部の利用空間,姿勢安定性など様々な機能的観点で研究されてきた.特に,重力が腹足類の姿勢に与える影響や生息環境の化学的特性が殻形態に与える影響が明らかになってきている.しかし,腹足類全体についての陸生と水生という生息環境の違いが殻形態,特に殻口の傾きの分布の違いを生じさせる原因については,それを説明しうる物理的な制約の網羅的かつ定量的な評価は十分になされていない.
本研究では,重力と流体抵抗による殻形態への物理的な制約を,殻口の傾きの機能的意義に着目し定量的に評価することを目的とした.理論形態モデルを用いて,殻口の傾きと螺塔の高さを変化させた理論上取りうる殻形態モデルを作成し,各殻形状に対する重力と抗力の影響をシミュレーションにより求め,実際に測定された標本とシミュレーションの結果を比較した.その結果,螺塔の高い殻形状は螺塔の低い殻形状に比べて姿勢が不安定であり,生じる抗力が大きいことを定量的に示した.螺塔が高い場合でも,殻口の傾きが低くなるにつれて抗力が小さくなることがわかり,螺塔が高く殻口の傾きが大きい殻形態は観察されないという指摘と整合的である.また,腹足類は生息環境を問わず重力の影響と抗力の影響を受けにくい殻形状を取ることがわかった.さらに,本研究に用いた貝殻標本の計測データでは,陸生種と水生種で殻口の傾きの分布に差が認められた.この分布の差は,腹足類の姿勢を変化させたシミュレーション結果から説明しうることが示された.これは,水生種の姿勢選択性が示唆する.


日本生態学会