| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) H02-04  (Oral presentation)

島嶼陸産貝類における殻色適応進化の方向と歴史
Direction and history of the adaptive evolution in shell colour on island land snails

*伊藤舜(東北大学), 千葉聡(東北大学), 小沼順二(東邦大学)
*Shun ITO(Tohoku Univ.), Satoshi CHIBA(Tohoku Univ.), Junji KONUMA(Toho Univ.)

絶海の孤島である海洋島は、いかに形質進化が生じたのかを知る類まれな機会を我々にもたらす。このような海洋島では、適応進化の解明を目的に多くの進化研究が行われてきた。一方で本土に近い海洋島においても、ユニークな形質進化が生じる場合がある。陸産貝類のシモダマイマイは、伊豆半島の一部と伊豆半島から50 km以内に点在する海洋島、伊豆諸島に生息する。本種は伊豆半島から伊豆諸島に進出し、一部の島では捕食者からの解放によりマイクロハビタット利用が拡大したことが知られている。このような捕食圧からの解放が、自然選択の変化を生み、殻色の多様化を引き起こした。しかし、各島の集団の詳細な系統関係は不明であり、いつ、どのように殻色が多様化したのかは明らかでない。そこで本研究では、ddRAD-seqを用いて本種の系統関係を決定するとともに、各島の集団における殻色の頻度分布を調べた。系統解析の結果、各島の集団は単系統群を形成する一方、伊豆諸島の新島集団は多系統群を形成した。新島の集団の一部は、隣接する式根島集団と系統的に近縁だった。新島は、西暦886年の向山火山の噴火によって現在の地形が形成されたが、それ以降に生じた遺伝子流動によって式根島集団との系統関係が構築されたと考えられた。それぞれの島集団の分岐年代を推定したところ、伊豆諸島が形成された100万年前より以降に各島で分岐が生じていた。これは伊豆諸島のオカダトカゲやシマヘビ、アカネズミの分岐年代と概ね一致する。また、シモダマイマイ集団の殻色の頻度分布を調べた結果、伊豆諸島の頻度分布は本土の頻度分布と異なる傾向を示した。この頻度分布は、島間でも異なっており、多様性が増加した集団と減少した集団の両パターンが見られた。このような殻色の適応進化は、異なるクレード内で別々に生じているため、伊豆諸島における殻色の適応進化は系統的に独立して複数回生じたと考えられた。


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