| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) H02-05  (Oral presentation)

オナジショウジョウバエにおける環境誘導変異と発生ゆらぎの関係
Does developmental fluctuation correlate with environment-induced variation in Drosophila simulans?

*斉藤京太(千葉大学・院・融), 坪井助仁(ルンド大学・理), 高橋佑磨(千葉大・融・理)
*Keita SAITO(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Masahito TSUBOI(Fac. Sci., Lund Univ.), Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

生物の表現型変異は、遺伝的変異と非遺伝的変異に大別できる。遺伝的変異は進化の源泉であり、その量やパターンが小進化の方向性や速度を左右する。一方で、非遺伝的変異は、環境依存的な「表現型可塑性」と発生過程でランダムに生じる「発生ノイズ」に大別することができる。変異自体は次世代へとは継承されないものの、これらもまた進化の方向性や速度に影響する可能性が指摘されている。したがって、非遺伝的変異に対する理解を深めることは、生物進化を理解する上で重要な意味をもつといえる。これまで、多くの先行研究によって可塑性の能力が定量されてきた。ただし、それぞれの研究では、注目される環境刺激が単一であることがほとんどであり、個体レベルの可塑性の能力が充分に評価できていないかもしれない。そこで本研究では、オナジショウジョウバエ(Drosophila simulans)の野外集団に着目し、表現型可塑性の能力と発生ノイズの生じやすさの個体間の遺伝的変異を定量するとともに、これらの間の関係を明瞭にすることを目的とした。まず、同一集団由来の単雌系統を複数作成し、一定環境において数世代飼育し、環境効果を排除した。その後、複数の環境要因を変動させる摂動実験によって翅形態における表現型可塑性の程度を単雌系統ごとに評価した。このとき、特定の環境に対して高い可塑性を示す系統は、いずれの種類の環境刺激に対しても、大きな表現型変異を示した。このことは、あらゆる環境変化に対する応答能力、すなわち、可塑性能に集団内の遺伝的変異があることを示唆している。最後に、同一環境下で飼育した同一単雌系統由来の個体の左右の翅形態の差から発生ノイズの程度を測定したところ、発生ノイズにも遺伝的な変異が存在することがわかった。ただし、発生ノイズの程度と表現型可塑性の程度の間に相関関係はなかった。これらの結果から、発生ノイズと表現型可塑性といった非遺伝的変異の進化への影響を考察する。


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