| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) H03-01  (Oral presentation)

宿主内での突然変異ウイルスの確率的絶滅:薬剤耐性出現の時間変動パターン
Escaping stochastic extinction of mutant virus: temporal pattern of emergence of drug resistance within the host

*林玲奈(九州大学), 岩見真吾(名古屋大学理学研究科), 巌佐庸(九州大学)
*Rena HAYASHI(Kyushu Univ.), Shingo IWAMI(Nagoya Univ.), Yoh IWASA(Kyushu Univ.)

ウイルスは、宿主の体内で、標的細胞に感染してその細胞の機構をもちいてコピー数を増やし、その後、感染していない他の標的細胞に感染して増殖する。ゲノムの複製ミスにより、ウイルス増殖のこれらのステップのいずれかが元の株よりも効率よく起きる変異株が出現すると、それは、急速に増殖し宿主を乗っ取ると予想される。しかし、感染細胞数が少ないときの確率性のために、これらの変異体の多くは消滅する。加えて、元の株の感染により、感染しやすい標的細胞の数が急速に減少するため、変異株の増殖速度は時間とともに低下する。
 我々は、時刻tで縮減した変異株が、確率的絶滅をまぬがれて生き残れる割合p(t)を、成長率に時間依存性がある連続時間分岐過程に基づいて計算した。ウイルスの感染経路について、[1]感染した細胞が感受性のある標的細胞と細胞間で接触してウイルスを感染させる場合,[2]感染した細胞が多数の遊離ウイルス粒子を放出し,それが感受性のある標的細胞に感染する場合、の2つの場合を分析した。p(t)が従う微分方程式をみちびき、それをして解いた。数学的解析による予測をコンピュータ・シミュレーションによって確認した。その結果、変異株は、元の株の感染初期につくられたものは高い確率で生き残れるが、その後は、生存できる確率が急速に減少すること、最終的な値に収束する前に振動することがわかった。また最終の定常値は、変異株と元の株との感染力の比率によって大きく影響されることがわかった。これらの結果の生物学的な意味について考察した。


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