| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) H03-02 (Oral presentation)
地球生態系の歴史において、多細胞生物は有性生殖とともに、多様なボディプラン・ボディサイズを創出することで生物界の多様性を飛躍的に高め、現在の生物の多層的な時間空間パタンと地球生態系の骨格の形成に大きな影響を与えたと考えられる。現在、多細胞生物は、クローン細胞集団の利他行動によって「個体」としての統一性・機能性を維持しているが、その個体性(individuality)成立の核心となるプロセスには未だ不明な点が多い。(1)多細胞生物の進化は、Major Transitions in Evolution(MTE)の代表事例の一つ(Maynard Smith & Szathmáry)であるが、上位ユニットである多細胞集団はどのようなメリットで生まれ、下位ユニットである単細胞レベルの利己的な細胞とのコンフリクトをどのように克服して個体としての統合性(新たな生物階層)を獲得することができたのか?(2)現在の多細胞生物は、生物群によって分化・統合のレベルに違いがある(L. Buss)。動物と植物・菌類、さらに、動物群の中でも分化のレベルは異なる。この個体としての多様性は、どのような条件に由来するのだろうか?
本発表では、上記の2つの問題を理論的に整理することを目的として、多細胞生物の初期進化シナリオを検討した結果を報告する。多細胞生物の成立に至る進化的状態を、1)単細胞、2)集合体形成、3)集合体レベルでの統合形成、4)生殖細胞系列と体細胞系列の分化、の大きく4つのステージとしてとらえ、各ステージにおいて細胞レベルと集合体レベルではたらく自然選択をマルチレベル選択の視点からモデル化した。このシナリオで表される各状態遷移プロセスが進行するための生態学的条件、および各状態遷移における階層間のコンフリクトとその克服メカニズムについて議論する。