| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) H03-04  (Oral presentation)

栄養の添加による植物群集の構造変化に関する理論的研究 【B】
Theory of structural change of plant community under fertilization 【B】

*山内淳(京都大学), 伊藤公一(北海道大学, 京都大学), 柴崎祥太(ローザンヌ大学)
*Atsushi YAMAUCHI(Kyoto University), Koichi ITO(Hokkaido University, Kyoto University), Shota SHIBASAKI(University of Lausanne)

 植物の群集構造は栄養の添加により変化することが知られる。それはランク-アバンダンス曲線(RAD)について3つの特徴的な変化、(1)RADの傾きの増大、(2)種数の減少、(3)低頻度あるいは不在だった種の高ランク化、を伴うが、それは栄養条件が種多様性を規定していることを示す。他方、複数の栄養を同時に添加する場合には、群集のバイオマスは増大することも変化しないこともあるが、単独の栄養の添加と比較すると種数の減少はより顕著になることが報告されている。これは、種の多様性が複数の栄養の制限下で高まるとする、niche dimensionality 仮説との一致が指摘されている。しかし、栄養の添加が上記の3つの変化を群集構造にもたらす過程や、生産性を増大させる栄養の添加がバイオマスに及ぼす影響には一貫性がない理由は不明なままである、それらに答えるには、生産性の増大と群集構造を繋げる包括的な理論が必要である。そうした一つとなりうるのが移住モデルである。
 移住モデルは、各種が離散的なサイト上にコロニーを形成しそこから幼生を放出すると考える。分散した幼生は他のサイトに侵入するが、そこが別の種で占められる場合は種間で競争が生じる。競争の能力には種間で違いがあり、上位の種の幼生は下位の種が占めるサイトを奪い取る。加えて、上位の種は幼生の生産力が必然的に低いという、競争力と繁殖力のトレードオフを仮定する。このモデルから得られる種の平衡頻度に基づき、群集構造の変化を議論することができる。解析の結果、栄養の添加が各種の幼生生産能力(トレードオフ関数)を高める場合、前述の3つの群集構造の変化が同時に現れることが分かった。また、トレードオフ関数の変化パターンによっては、種数の減少とバイオマスの増大のどちらか一方がより顕著になることが分かった。これらは栄養添加によって植物群集に見られる構造の変化をうまく再現し、群集構造が種間競争により規定されていることを示唆する。


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