| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-01  (Oral presentation)

国内自然史系博物館の標本データベースの現状と活用における課題 【B】
Current status and issues in utilizing the sample database of natural history museums in Japan 【B】

*水沼登志恵, 神保宇嗣, 細矢剛, 大野理恵, 海老原淳, 中江雅典(国立科学博物館)
*TOSHIE MIZUNUMA, Utsugi JINBO, Tsuyoshi HOSOYA, Rie OHNO, Atsuhi EBIHARA, Masanori NAKAE(National Museum of Nat. & Sci.)

サイエンスミュージアムネット(S-Net)は国立科学博物館が運営する、全国の自然史系博物館・大学・研究機関の自然史標本データ共有のネットワークである。2022年2月時点でデータ件数は660万件を超え、これらの情報は地球規模生物多様性情報機構(GBIF)にも提供されて世界の生物多様性の研究に貢献している。本研究ではS-Netの現状のデータ傾向と活用上の課題を検討した。
S-Netのデータ比率は動物界50.9%、植物界44.2%、菌界3.0%、クロミスタ界1.3%で、GBIFの傾向とほぼ一致する。重複を除く学名数は動物界13万、植物界4万、菌界2万と分類学会連合(2002)の日本産既知種数(動物界6万、植物界0.9万、菌界1.3万)を上回るが、表記揺れやシノニム等による重複も含まれるため、種名リストの整備と正規化が望まれる。2018年に受付開始した化石標本情報は1.3%に過ぎず、今後の増加が求められる。
データを年代別にみると、1975年から2004年には5年間ごとのデータが50万を超えているのに対し、2005年以降は17年間で100万件に満たず、標本の採集から収蔵・電子化の間に大きなライムラグがあることを示唆している。この傾向もGBIFの傾向と一致し、情報登録のスピードアップが求められる。
都道府県別データ数の上位3県は神奈川・北海道・長野だが、1km2当たりのデータ数では神奈川・沖縄・東京と変化する。単位面積当たりの下位3県(大分・広島・新潟)ではS-Net参加機関が僅かであることから、地理的ギャップの解消には、地域の標本を数多く収蔵する機関の参加と面積に見合った数の標本データ収集が必要である。
緯度・経度情報のあるデータの割合は40.4%に留まっている。緯度・経度情報の充実と精度向上は種の分布を用いる調査・研究には必須であり、参加機関への周知と座標情報入力をサポートする技術の検討が重要である。


日本生態学会