| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) I02-02 (Oral presentation)
外来捕食者の侵入は、生物の絶滅の主要因となっている。外来種の影響が生じるプロセスの一つに、餌付けや外来被食者などの減らない餌資源が、外来捕食者を高密度化させ、在来被食者への影響を助長するHyper-predationが挙げられる。本研究の調査地である奄美大島には、数多くの絶滅危惧種が生息し、2021年には世界自然遺産に登録された。現在、在来種の最大の脅威は、イエネコによる捕食であり、捕獲などの対策が実施されている。一方で、イエネコに対する餌付けや放し飼いがHyper-predationを引き起こしている可能性もあり、捕獲だけでなく適正飼養など人の行動変容の必要性も議論されている。そこで、本研究では、奄美大島の森林域で捕獲されたイエネコが、どの程度人為的な資源(キャットフード)に依存しているか、また、人為的資源に依存する個体が森林に侵入した際、絶滅危惧種をどの程度捕食しているのかを明らかにすることを目的とした。そのために、長期的な食性を評価するイエネコ捕獲個体の体毛の窒素・炭素安定同位体比分析と、捕獲直前の食性を評価する捕獲個体の糞分析を行った。安定同位体比分析の結果、森林域で捕獲されるイエネコには、おもに人為資源に依存するタイプと在来種に依存するタイプの2タイプが存在することが確認された。さらに、人為資源に依存する個体であっても、糞分析からは、高頻度で絶滅危惧種が検出された。興味深いことに、資源依存のタイプによって糞分析結果に違いがあり、人為資源依存型は、アマミノクロウサギの出現頻度が高く、在来種依存型は、アマミトゲネズミの出現頻度が高かった。アマミノクロウサギは林道によく出現することから、里のイエネコが森林に侵入する際に、林道をよく利用しているのかもしれない。本研究の成果は、イエネコの餌付けや放し飼いが在来種の捕食につながっている実態を明らかにするものであり、対策は捕獲だけでなく人の行動変容も求められることを示している。