| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) I03-05 (Oral presentation)
水生動物が水田を利用するためには、繁殖や水中生活の時期と湛水時期がある程度一致する必要がある。関東地方以西では、水稲品種や農法によって水田間で田植え時期が大きく異なる場合があり、裏作として麦を栽培する二毛作も見られる。しかし、田植え時期や輪作体系(単作・二毛作)が水生動物群集及ぼす影響については不明な点が多い。本研究では、早植え栽培(5月植え)、普通期栽培(6月植え)、米麦二毛作(6月後半植え)の水田において、田面水中の水生動物群集を比較した。
2020~2021年に埼玉県加須市内において、農法の異なる合計20枚の水田で調査を行った。5~7月にかけて、たも網で水生動物を採集するとともに、水田内の水温、pH、電気伝導度を測定した。
水田ごとの水生動物群集の違いについて、PERMANOVAによる重心の検定を行ったところ、農法間で有意な差が認められた。早植え栽培の水田では、トウキョウダルマガエル幼生とアキアカネ幼虫が特徴的に出現した。一方、二毛作水田では、単作水田に比べて多数のユスリカ科幼虫が採集された。二毛作水田においてユスリカ科幼虫を支える餌資源を推定するために炭素安定同位体比を測定したところ、Chironomus属の1種は麦藁に比べて5~10‰も高い炭素安定同位体比を示し、麦藁への依存度は限定的であった。一方、Dicrotendipes属やTanypus属への麦藁の寄与率は、水田によって大きく異なった。麦藁は麦収穫後に土中にすき込まれた後に土壌中で分解されるが、必ずしも麦藁がユスリカ科幼虫の餌資源として直接的に利用される訳ではないと考えられる。
水生動物群集の主要な構成種である水生昆虫の個体数に影響する要因を明らかにするために、水田内の環境、餌生物の個体数(ユスリカ科幼虫と貧毛類)、水田の農法を説明変数、調査日をランダム項とした一般化線形混合モデルにより解析した。その結果、水生昆虫の個体数は餌生物の個体数が多いほど増加する傾向が認められた。