| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(口頭発表) I04-03  (Oral presentation)

都市近郊林における人工ギャップ形成後9年間の樹木動態
Tree dynamics for 9 years after the formation of artificial gaps in urban forests

*島田和則(森林総研多摩科学園), 勝木俊雄(森林総研九州支所), 岩本宏二郎(森林総研多摩科学園), 九島宏道(森林総研多摩科学園), 長谷川絵里(森林総研多摩科学園), 阿部真(森林総研多摩科学園), 大中みちる(森林総研多摩科学園)
*Kazunori SHIMADA(Tama For. Sci. Garden, FFPRI), Toshio KATSUKI(Kyushu Res. Center, FFPRI), Kojiro IWAMOTO(Tama For. Sci. Garden, FFPRI), Hiromichi KUSHIMA(Tama For. Sci. Garden, FFPRI), Eri HASEGAWA(Tama For. Sci. Garden, FFPRI), Shin ABE(Tama For. Sci. Garden, FFPRI), Michiru OONAKA(Tama For. Sci. Garden, FFPRI)

社会・経済情勢の変化により、利用目的を失って放置された雑木林(広葉樹二次林)や針葉樹人工林は各地に多くみられる。都市近郊域においては森林(都市近郊林)に対して、生物多様性保全などこれまでの資源利用とは異なる機能も求められている。そのために、伝統的な里山林管理や標準的な森林施業とは異なる、様々な管理が試行されている。本研究では多様な管理の一つとして、多様性保全を目的に人工ギャップ形成を試み、その後の樹木動態を分析した。調査地は東京都八王子市の多摩森林科学園試験林で、針葉樹人工林、広葉樹林など林相が異なる10調査区において、100㎡の上層木伐採を行って人工ギャップを形成し、伐採前年及び伐採後に継続的に毎木調査を行い、9年間の林分構造や樹木動態を分析した。
その結果、9年の間に多くの調査区ではアラカシ等の常緑高木種が成長していた。今後はこれらが卓越したパッチが形成されると推測された。先駆性高木種は一部の調査区で混成したが、これらが卓越する調査区はなかった。このことはギャップ面積が100㎡と小さかったこと、上層木のみの伐採で下層処理をしていないため、前生樹が残っていたことによると思われる。このように、小面積の上層木伐採による人工ギャップは、非先駆性の高木種による林相転換には有効と考えられる。しかし、照葉樹林域である当地では、常緑樹が卓越することにより下層が暗くなることが考えられる。一部の調査区では人工ギャップ形成前から林内が明るく、伐採前から里山的多様性が高かったが、ここでも常緑樹の増加が見られ、下層が暗くなることにより長期的には種数の減少が予想される。そのため人工ギャップ形成のねらいを単なる林相転換にとどめず、草本まで含めた多様性保全を目指す場合には、形成前後の林分構造や樹種構成において、下層植生も考慮に入れた管理方針も検討することが必要である。


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