| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) I04-05 (Oral presentation)
都市近郊の住宅地には,しばしばスギやヒノキ等が植栽された小規模な森林(以下,都市近郊林と呼ぶ)が残存している。都市近郊林には周辺住民の生活や社会に利益をもたらす,送粉者のような生物が生息する一方で,口咬被害や感染症媒介によって住民の健康に悪影響(ディスサービス)を与えるマダニ類のような生物も生息している。都市近郊林に対する管理活動が,対象林地の生物相や生態系サービス・ディスサービスに与える影響を定量すること,山地人工林と比較した都市近郊林の特徴を調べることを目的に,以下の調査を行った。
東京都と千葉県の管理強度の異なる3地域計4地点の都市近郊林を主な調査地とし,マレーゼトラップと衝突板トラップによる送粉昆虫の採取(2021年5月~11月),フラッギング法によるマダニの採集(2021年6月と9月の2回),植生調査(2021年6月),マダニの宿主である野生動物の密度を知るためのカメラトラップ(2021年7~11月)を実施した。比較対象として,茨城県つくば市の山地人工林でも同様の調査を実施した。
管理強度の高い都市近郊林ほど下層植生量が少なく,反対に送粉昆虫の捕獲数は多かった。一方,下層植生量の少ない調査地では中型野生動物の撮影数が多く,マダニ類の捕獲数は野生動物の撮影数と比例していた。以上の結果から,都市近郊林の管理強度を高めると,送粉昆虫の増加やマダニ類の増加につながり,最終的に生態系サービスと生態系ディスサービスの双方が増加する可能性がある。
いずれの都市近郊林も,下層植生の種数や多様度,送粉昆虫の個体数は,山地人工林よりも大きかった。下層植生の多様性や送粉昆虫の量など生態系サービス提供につながる要素は,粗放的に管理された都市近郊林でも,山地人工林のそれに匹敵する可能性が示された。