| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) I05-03 (Oral presentation)
地域の生物多様性保全上、生物種情報は不可欠であるが、近年、担い手不足により地域での生物相調査が困難になってきている。特に博物館等の専門機関がない地域はさらに難しい状況にある。
京大芦生研究林のある京都府南丹市美山町は2016年に国定公園に指定されビジターセンター(以下、VC)が設置された。また2014年には美山エコツーリズム全体構想を策定し、生物モニタリング調査の実施が掲げられているが、実施体制はまだ整っていない。
芦生研究林では、持続可能な森林と地域社会を目指し、その一環としてVCが主催する親子向け植物観察会に協力し、地域の生物情報の蓄積が可能なモニタリング型観察会を設計した。また関係者へヒアリングから継続性や担い手の育成等の課題を抽出した。
方法:植物の調査手法は環境省モニタリングサイト1000植物調査を参考に、VC周辺のルート(360m)を3区間に分け、月1回の調査でルート上に見られた開花植物を区画ごとに採集した。種同定はVCスタッフの指導のもと参加者が植物写真を元に行った。
結果:2021年4月から12月まで全8回開催し、親子15組のべ124人が参加した。植物は127種が確認された。区画間の植物相の類似度を視覚的に紹介するベン図、および開花カレンダーを作成した。本取組を通じて、VCの環境教育イベントに国定公園内の生物種情報を収集・蓄積する機能を付加できた。
VCへのヒアリングでは、研究者との連携に期待することとして、科学的知見による観察会の質の向上や、他地域の活動との比較による活動の評価等が挙げられた。
課題として、現状では他地域への展開や継続性の担保が難しい。しかし美山町は芦生のエコツアーや茅葺きの里のガイドが住民として多数おり、植物分類や体験プログラムの運営に長けた人がいるため、本観察会の担い手として活躍が期待できる。また地域の子供たちの植物分類技能を高め観察会の担い手になってもらうなど、人材育成の体制づくりが求められる。