| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(口頭発表) I05-04 (Oral presentation)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により,世界的に様々な行動制限や行動変容が求められ,人の動きは大きく変化した。例えば,外出先として人口密集地を避け,郊外の緑地を訪れる人が増加したり,緑地や自然を好ましいと考えるように意識が変化したりといった報告がある。他方で,上述のような人の動きの変化は,大都市や新型コロナ流行直後の一過性の変化である可能性も否めない。そこで本研究では,里山里海が残る石川県において,携帯電話の位置情報をもとに人の動きを把握する人流ビックデータの技術を活用し,新型コロナ流行前後での市民や県外客の緑地や自然地域などの利用パターンの変化を明らかにすることとした。分析に用いた人流・位置情報データは,企業が本人の同意を得て取得したスマートフォン端末の位置情報のうち,新型コロナ流行前の2019年と流行後の20年,21年のGWを含む5月1~15日に,石川県内で記録され,かつ個人を特定できないよう「汎化加工」を行った約2万人分のデータを用いた。これらには各携帯端末に内蔵されたGPSが記録した緯度経度と記録時刻(5分から数時間おき)が含まれる。分析の結果,新型コロナ禍による緑地や自然地域などの利用パターンの変化は,複雑な傾向を示すことが見えてきた。すなわち緑地や公園の立地やタイプなどによって異なり,金沢市中心部の観光客も訪れるような大規模緑地(兼六園や金沢城公園など)では,観光客だけでなく,市民の利用者も大きく減少したのに対し,郊外の遊歩道が整備された海浜公園や大型キャンプ場などでは,コロナ流行前よりも利用者が増加している場所も見られた。他方で人々の外出距離は短くなっており,景勝地の海岸や岬,河川沿いの渓谷や登山口などの多くは,新型コロナ流行後(緊急事態宣言下)の2020年に訪問者が激減した後,21年には回復傾向がみられたものの,流行前の水準には戻っていなかった。