| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-002 (Poster presentation)
多種共存機構の解明は、群集生態学における主要な研究課題の1つである。ヤマネとヒメネズミはいずれも樹洞を利用する夜行性の小型哺乳類であり、国内の広い地域で同所的に生息している。山形県の落葉広葉樹林における先行研究では、ヤマネは樹木の高所を主に利用し、ヒメネズミは低所を利用することが明らかになっている。一方、九州の照葉樹林に生息するヤマネの生態や、他の樹上性小型哺乳類との種間関係については未解明な点が多い。本研究では、佐賀県内のヤマネとヒメネズミが同所的に生息する2地点とヒメネズミのみが生息する2地点において、両者の活動時期および営巣場所を比較した。2017年5月〜2019年1月には、両種が生息する2地点で塩化ビニル製3種類(S25 0㎤、M435㎤、L635㎤)および木製1種類(3000㎤)の巣箱を用いた調査を実施し、2021年1月〜12月には4地点で木製3種類(小500㎤、中1000㎤、大2000㎤)の巣箱を使いた調査を実施した。巣箱は任意の樹木の幹に地面から1.5~2m(低所)または3.5~4m(高所)の高さで設置した。両種の活動性を調査するため、一部の巣箱には自動撮影カメラも設置した。巣箱サイズ、位置、設置した樹木の胸高直径が両種の巣箱利用率に及ぼす影響を一般化線形モデルにより解析した。カメラによる撮影頻度はヤマネでは春と秋に、ヒメネズミでは秋に活動性が高かった。ヤマネでは、巣箱サイズの選好性は見られず、高所を有意に多く利用したのに対し、ヒメネズミでは胸高直径が太い樹木に設置した巣箱をより多く利用しサイズが大きい巣箱を好む傾向が見られた。ヤマネの有無でヒメネズミの営巣場所に有意な違いは見られなかった。以上より、九州北西部の照葉樹林では2種の間で営巣場所の選択に影響を及ぼす要素が異なっており、本州と九州で共存機構が異なっていることが示唆された。