| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-003 (Poster presentation)
哺乳類の糞DNAを用いた標識再捕獲法のうち、空間明示型標識再捕獲法(SECR)は、閉鎖空間でなくても密度推定が可能である。しかし、サンプル範囲が十分に広くないと推定値が過小評価になるという報告もある。そこで、本研究では、島という閉鎖空間において、糞DNAによる個体数推定と密度推定を行うことで、その妥当性を検証した。調査地は、複数の食肉目が同所的に生息する宮城県出島(2.63km2)とし、タヌキを調査対象とした。タヌキは、タメ糞と呼ばれる同じ場所に糞をする習性があるため、糞試料は採取しやすく、検証に適した種である。タヌキは都市よりも島嶼で密度が高いとの報告があるが、密度に関する情報は少ない。2018年の2月と2020年の2月に出島で採取したタヌキの糞からDNAを抽出し、マイクロサテライト9座位で個体識別した後、個体数推定と密度推定を行い、その結果を比較した。
2018年の38試料からは28個体が、2020年の48試料からは34個体が識別された。Capwireを用いた個体数推定では、2018年は57個体、2020年は64個体と推定され、島の面積をもとに密度を算出すると、2018年は21.7頭/km2、2020年は24.3頭/km2となった。一方、SECRを用いて密度を算出した結果、2018年で14.5頭/km2、2020年で47.3頭/km2となった。2年間で3倍も個体が変動しているとは考えられないため、Capwireの結果が妥当であると考えられる。SECRで値が異なった要因として、1個体あたりのサンプル数が少なく、同じ個体がサンプルされたタメ糞場間の距離の分布が2年で大きく異なっていたことが考えられる。SECRを用いる場合は、サンプル数が十分でないと推定値の信頼性が低くなる可能性を示唆している。
また、Capwireで求めたタヌキの密度を先行研究と比較すると、都市よりも島嶼での密度が必ずしも高いわけではないことが分かった。先行研究で調査された島にはタヌキの他に食肉目が生息していないのに対して、出島では複数の食肉目と共存しているため密度が低いと考えられた。