| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-004 (Poster presentation)
アリ類をはじめとする社会性生物は,集団を形成(組織化)することで外的なストレスに対する集団レベルの防御などを効率的におこなっている.特に,病原菌などに感染した個体に対する巣仲間によるグルーミング行動などは,外的ストレスへの防御として広く認知されている.近年ではこのようなアリ類の行動が,殺虫剤をはじめとする薬剤(人為的な事象)においても発現することが指摘され始めている.しかしこれまで,アリ類における薬剤に対する行動的な応答については個体レベルの評価にとどまっており,薬剤に曝露した個体と非曝露個体との間の相互作用からアリ類の薬剤に対する行動について調査した事例は皆無に等しい.そこで本研究では,薬剤に曝露した働きアリに対して健全他個体がどのような反応を示すのかについて,実験的に評価した.試験は,薬剤に曝露していないトビイロシワアリのワーカー(健全個体)をシャーレに4個体導入し,その後,実際の防除現場で使用される殺虫剤のフィプロニル(50 ppm)を含むスクロース溶液を摂食させた本種のワーカー(曝露個体)を1個体導入した(対照群はスクロースのみを摂食).その後の様子を2時間にわたり撮影し,薬剤曝露個体と健全個体間での接触回数や接触時間などを記録した.結果,処理間の接触回数に明確な差はみられなかったが,接触時間は薬剤処理群で有意に長くなった.また,フィプロニル処理群は対照群に比べ,グルーミング行動が高頻度で観察された.グルーミング行動は体表炭化水素の組成が変化することによっても誘発される.このことから,薬剤曝露が働きアリの体表に存在する特定の炭化水素の発現量を変化させることで他個体に対して何らかのシグナルを送った可能性が示唆された.