| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-006 (Poster presentation)
群居性有蹄類の多くはメスが出生地付近に留まることにより、母系の群れを形成する傾向にあるが、単独から群れ社会への移行過程に血縁関係がどのように関与したかについては十分にわかっていない。単独性有蹄類であるニホンカモシカは、森林環境において雌雄ともに同性に対するなわばりをもつことが複数の地域で示されてきた。しかし、浅間山の高山草原に生息する個体群では、メス同士が行動圏を重ねてグループなわばりを形成していることが発見された。そこで、本研究では、メスグループの形成と血縁度の関係を解明するために、メスがグループなわばりを形成する高山草原(以下、草原)とメスが単独なわばりを形成する山地帯森林(以下、森林)のカモシカから採取した糞と筋肉試料を用い遺伝解析をおこなった。性判別マーカーとマイクロサテライト7座位で個体識別と性判別を行った後、草原19個体(オス5個体、メス14個体)、森林11個体(オス6個体、メス5個体)について、マイクロサテライト23座位の遺伝子型を決定し、平均血縁度の算出を行った。草原、森林とも、メス間の血縁度(草原:0.05、森林:0.18)は、オス間の血縁度(草原:0.16、森林:0.04)と有意差がなかった(草原:P=0.11、森林:P=0.49)。また、草原と森林の両地域を併せた地域集団内のメス間の血縁度(0.06)は、地域集団間のメス間の血縁度(-0.15)より有意に高く(P<0.01)、地域集団内のオス間の血縁度(0.13)も地域集団間のオス間の血縁度(-0.17)よりも有意に高かった(P<0.01)。以上の結果は、草原と森林の両地域において雌雄ともに地域集団内に留まる傾向が高く、地域集団内のメス間の血縁度が高いわけではないことを示している。草原でグループなわばりを形成しているメス間の血縁度が高い可能性はあるが、カモシカでは地域集団のメスの平均血縁度が低くても環境条件などによりグループなわばりが形成されることがあると考えられる。