| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-008  (Poster presentation)

摂食経験に応じて変化するタンガニイカ湖産鱗食魚の捕食行動と下顎骨形態
Change of predation behavior and lower-jawbones of the scale-eating cichlid fish from Lake Tanganyika in response to feeding experience

*丸林菜々子(富山大学), 八杉公基(宇都宮大学), 小田洋一(名古屋大学), 竹内勇一(富山大学)
*Nanako MARUBAYASHI(Univ. Toyama), Masaki YASUGI(Utsunomiya Univ.), Yoichi ODA(Nagoya Univ.), Yuichi TAKEUCHI(Univ. Toyama)

 広い動物群において、餌の質や量に応じて摂食に関わる形質が変化する表現型可塑性が知られている。アフリカ・タンガニイカ湖の鱗食性シクリッド Perissodus microlepis(鱗食魚)は、捕食行動と口部形態において顕著な左右性を示し、下顎骨の左右差が大きい個体ほどより多くの鱗を摂食できることが分かっている。また、下顎骨の左右差は体長に伴って拡大することが明らかとなっているが、その左右差が身体の発達によって自律的に起こるのか、それとも経験によって拡大するのかは不明である。本研究では、鱗食魚の下顎骨形態の左右差を拡大するメカニズムについて実験的に検証した。
 まず、野外採集した成魚と、固形飼料のみで飼育した同程度の大きさの繁殖個体において、下顎骨の左右差を比較した。繁殖個体の下顎骨も左右対称ではなく形態的左右差を示したが、野外個体のそれよりも約1/3程度しかなかった。すなわち、下顎骨の左右差の程度には後天的な影響が大きいと示唆された。次に、鱗食経験を課すために、生後4ヶ月の鱗食魚20匹を飼育するホームタンクに餌魚(キンギョ)を導入し、10分間自由に摂食させた。餌魚の摂食は4ヶ月間毎日行った。鱗食経験のレベルを変えるために、餌魚1匹群と2匹群を設けた。実験の結果、実験日数とともに襲撃回数は増加し、最終的に餌魚1匹群では10分間に約150回、餌魚2匹群では約270回も襲うようになった。目視での襲撃回数のカウントに加えて、鱗食魚と餌魚を高い精度で検出可能なニューラルネットワークを構築し、両者の相対位置の変化を可視化した。さらに、それら2群と同齢に相当する生後8カ月の鱗食未経験個体の下顎骨の左右差を計測し、比較した。下顎骨の左右差は鱗食経験に応じて拡大し、餌魚1匹群と2匹群の左右差は鱗食未経験群よりも有意に大きかった。以上より、鱗食魚は鱗食経験を積み重ねることによって、捕食行動と口部形態の左右差が可塑的かつ適応的に変化すると示唆された。


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