| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-009  (Poster presentation)

広緯度で比較した降海型アメマスの回遊パターンの多様性と成長
Latitudinal variation in migration patterns and growth of white spotted char (Salvelinus leucomaenis)

*後藤暁彦(東京大学), 黒木真理(東京大学), 白井厚太朗(東京大学), 森田健太郎(北海道大学)
*Akihiko GOTO(The University of Tokyo), Mari KUROKI(The University of Tokyo), Kotaro SHIRAI(The University of Tokyo), Kentaro MORITA(Hokkaido University)

サケ科魚類を代表とする遡河回遊魚は高緯度の豊かな海へと進出する過程で回遊性を獲得したと考えられており,これまで回遊性をもつ種や種内の回遊型の出現頻度が高緯度で高まることが報告されてきた。しかし,広緯度に分布する種は周辺環境に応じた回遊生態をもつと考えられるものの,同じ回遊型内の回遊生態の多様性についてはほとんど着目されてこなかった。そこで本研究では,回遊規模が沿岸域に限定されるアメマスSalvelinus leucomaenisを用いて,広緯度帯に生息する個体の海洋と河川の成長を分析し,回遊型内にも回遊パターンや海洋依存度に緯度クラインが存在するのか検証した。
2019年8月24日~31日および2020年9月9日~15日に,北海道北部から新潟県中部(38°06′N~45°26′N)の日本海に注ぐ20河川において,アメマスを採集した。耳石を用いて年齢査定と微量元素分析を行い,典型的な降海型と判別された個体(n = 117)について,耳石のバックカリキュレーション法により各年齢における尾叉長を推定し,河川と海洋における年間成長速度と成長割合を算出した。緯度を説明変数とした一般化線形混合モデルによって,成長速度および海洋依存度の緯度クラインを検証した。
成長解析の結果,河川の年間成長速度は高緯度ほど遅くなる傾向がみられた。一方,処女降海直後1年間の海洋における成長速度は高緯度でより速く,河川と海洋で成長の緯度クラインに逆傾向が認められた。また,処女降海年齢は高緯度に分布する個体ほど高齢であるにもかかわらず,生涯成長量に占める海洋成長の割合は高緯度ほど高かった。
以上より,遡河回遊魚の海洋依存度は,種レベルや個体間レベルだけではなく,降海型の海洋と河川の利用パターンにおいても高緯度域ほど海洋依存的な傾向をもつことが示された。河川と海洋の異なる成長の緯度傾向は,河川では水温や生息密度が制限要因となるのに対し,海洋成長は餌環境や成育期間の違いが影響している可能性が考えられた。


日本生態学会