| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-011  (Poster presentation)

河川源流域における水域環境の季節的変化とアカハライモリの移動
Migration of Japanese newt associated with seasonal changes of stream environments in the mountainous forest.

*小川さくら, 吉村謙一(山形大学)
*Sakura OGAWA, Kenichi YOSHIMURA(Yamagata Univ.)

 河川は上流部で特に環境変化が大きく、降水量の増減により水深や流速等が変化する。
 そのような環境に生息する魚類や両生類は環境変化に対する移動が知られている。先行研究では生物の移動を個体数の増減によって表す場合が多く、これにより生物が選択する生息地環境を知ることが可能である。しかし、実際に個体の移動を追っているわけではないため、現在の環境よりも好適な環境に向かい実際に個体が移動するのかは不明である。そこで有効な方法が個体識別であり、これにより個体ごとの移動の追跡が可能になる。つまり、移動前後の環境が分かり、どのような環境に向かって移動しているのかを知ることができる。
 本研究では腹部模様による個体識別が可能なアカハライモリ(Cynops pyrrhogaster)を調査対象とした。常に動的に変化し続ける環境の中で、イモリの選択する生息地の環境要素も変化するため、本種の生息地内の移動が引き起こされると仮説を立てた。降雨や季節に伴う環境変化と生物の環境選択の観点から、河川上流部内の水生生物における環境変化に対する移動の変化を明らかにすることを目的とする。
 山形大学演習林内の河川源流部にて2021年6月~11月に調査を行なった。沢内を環境変化に沿ってプロット分けし、各プロットにて環境要素とイモリの個体数を測定した。河川内環境は降水量の増減の影響による季節的変化があった。選択環境として有意な影響が見られた水深、流速共に降水量に影響を受ける変数のため、生息地に及ぼす降水量の影響は大きい。特に流速は移動前後での変化が大きかった。
 本研究ではイモリの流速変化に対する移動が確認できた。つまり流速は重要な生息地条件であり、流速変化に伴ってイモリの移動も変化する。この結果より、河川内で動的に変化する環境に対して、水生生物は移動もしくは定着によって生息に適した環境を選択する可能性が示唆された。


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