| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-012 (Poster presentation)
捕食圧は強い選択圧となる場合も多く,被食者では様々な進化が生じてきた。特に卵の段階では捕食者から逃げることが不可能なため,他の成長段階よりも捕食に対して脆弱である。これまでの卵捕食に対する防御の研究では,親による卵の保護や卵自身の化学的防御が知られているが,卵自身の物理的防御についての研究は少ない。その中でも,種内で卵に変異がある種は少ないため,種内に着目した研究はほとんどない。
クロサンショウウオ(Hynobius nigrescens)の卵嚢は,透明卵嚢から乳白色卵嚢まで色に地理変異が存在する。著者らのこれまでの研究により,近縁種の卵嚢は全て透明であることから,本種では透明卵嚢から乳白色卵嚢へ進化したことが考えられる。また,乳白色卵嚢は透明卵嚢よりも硬いことが分かっているため,捕食者に対して物理的に防御していることが考えられる。そこで本研究では,本種の卵嚢は捕食圧が強い地点で,物理的防御として透明卵嚢から乳白色卵嚢へ進化したかを検証した。まず最初に,野外において卵嚢の捕食者と卵嚢に対する捕食圧を調べた。その結果,透明卵嚢が産卵されている地点よりも乳白色卵嚢のみが産卵されている地点でアカハライモリ(以下,イモリ)による捕食圧が強かった。次に,卵嚢の主要な捕食者であったイモリに各色の卵嚢を与えて飼育実験を行い,イモリが卵嚢をつついた回数と卵嚢を与えてから1日後までに捕食した卵数を数えた。その結果,イモリは各色の卵嚢を同程度つついていたにも関わらず,透明卵嚢の卵は捕食され,乳白色卵嚢の卵は全く捕食されなかった。これらのことから,乳白色卵嚢は,卵嚢を硬くすることによってイモリに対して物理的に防御していることが示された。そのため,本種では,イモリによる捕食圧が弱い地点では柔らかい透明卵嚢が維持され,捕食圧が強い地点では硬い乳白色卵嚢へ進化したことが考えられる。