| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-013  (Poster presentation)

アマゴ野生集団における繁殖成功の個体間変異:ゲノムワイド家系解析からの評価
Inter-individual variation of reproductive success in wild amago population : pedigree analysis with genome-wide SNP data

*野田祥平(神戸大学), 秋田鉄也(水産機構), 武島弘彦(東海大学), 佐藤拓哉(京都大学)
*Shohei NODA(Kobe Univ.), Tetsuya AKITA(FRA), HIrohiko TAKESHIMA(Tokai Univ.), Takuya SATO(Kyoto Univ.)

野生生物の繁殖成功度を正確に推定することは、集団動態の安定性が維持される仕組みや環境変化への適応進化の理解につながる。しかし、個体の繁殖成功度は、家系の復元によって観測されるが、野生生物の家系構造を多検体・高精度で推定することは容易でない。近年、一塩基多型(SNP)データに基づいた、効率的かつ正確な家系の推定が注目されている。SNP情報に基づく家系解析では、使用SNPが多いほど推定精度は高まるが、SNP数を確保するために遺伝子型エラーを許容すれば推定精度は低くなる。しかしながら、家系解析において、SNP情報の量と質を最適化するSNPのフィルター条件は、十分に検討されていない。そこで本研究では、サケ科魚類であるアマゴの野生集団を対象として、高精度の家系解析を実現するために最適なSNP抽出条件を検討し、個体の繁殖成功度の推定に適用した。
アマゴ88個体(2016~2019年に採集)について、GRAS-Di法によるSNPタイピングを行った。得られた37,321 SNPについて、Minor allele frequency (MAF) 10 %以上、Call rate 100 %でフィルターしたところ、652個のSNPを抽出できた。このデータに基づき、IBD(Identity by descent) を推定したところ、親子ペアのIBDを理論値に近い値で推定できた。また、2つの家系解析ソフトウェアにて、判別できた親子ペア数は55ペアと最も多いだけでなく、判別ソフトウェア間の整合性も高かった。その他のフィルター条件(MAF 5%, 10%, 20%以上, Call rate 70%, 80%, 90%, 95%以上)では、SNP数が多いにも関わらず、IBDや判別親子ペアの信頼性は大きく揺らいだ。このことから、SNP情報の量と質の最適化は、正確な家系解析に必須であることが伺えた。最適条件のデータに基づく親子関係から、繁殖成功度の個体差を調べると、年ごとに個体間変異があり、生活史タイプとの関連性も確認された。今後、集団全体を対象とした網羅的な家系解析を実施できれば、繁殖成功度の個体変異と集団動態との関連性を評価できるに違いない。


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