| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-015 (Poster presentation)
クスサン(Saturnia japonica)は森林害虫として知られ、全国各地での局所的被害の他、過去には北海道のウダイカンバ一斉林において大規模な被害が報告されている。本研究では地域間のクスサンの遺伝的関係を明らかにすることを目的として、日本国内のクスサンの遺伝的多様性と地域個体群同士の遺伝的関係を解析し、クスサンの日本への移入過程や日本国内での分布拡大について考察した。
解析には北海道3地点、岩手県3地点、熊本県1地点の計7地点から得られた76サンプルを用い、これらのミトコンドリアCO1遺伝子の546bpを決定した。ハプロタイプ多様度(h)および塩基多様度(π)、集団間の遺伝的分化の指標である遺伝的距離(Fst)を算出し、ハプロタイプ間の遺伝的関係を示すハプロタイプネットワーク図を作成した 。
先行研究により中国大陸で確認されているハプロタイプH3、H4に加え、新たにnew01、new02、new03の計5つのハプロタイプを検出した。遺伝的多様性は北海道ではH3のみが検出されたためhおよびπのどちらも0だった。一方、岩手県および熊本県ではそれぞれ4つのハプロタイプがみられ、hは0.675~0.900、πは0.00234~0.00354だった。北海道は岩手県および熊本県と遺伝的な分化が認められ(Fst = 0.136, 0.728) 、一方、岩手県と熊本県の間では認められなかった(Fst = 0.038)。ハプロタイプネットワーク図から、本研究で確認されたハプロタイプと中国大陸東部で確認されているハプロタイプはH3を中心に派生したことが示唆された。これらの結果から、日本国内のクスサン(屋久島以北亜種)が、朝鮮半島経由で九州から日本へ侵入してきたものと考えられた。また北海道では遺伝的多様性が著しく低いことから、何らかの理由で本州から限られた個体が移入したと考えられた。