| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-017 (Poster presentation)
遺伝子流動は生物集団の実質的な連結性であり、種の存続に重要な概念である。集団間の遺伝子流動の強度は野生生物の集団遺伝構造を調べることにより個別に考察されることが多いが、景観内における「遺伝子流動の起こりやすさ」を環境要素でモデル化することができれば、一般化や環境変化への予測が可能になると考えられる。高い生物多様性を抱えながらも気候変動や分断化に脆弱な河川生態系では、連結性の理解は重要な課題であるが、他の生態系とは異なる空間構造をもつことや水温などの環境データが入手しにくいこともあり、モデルベースの景観遺伝学的研究はあまり行われてこなかった。そこで、本研究では、気候変動による生息地の減少が危惧されている冷水性魚類ハナカジカを材料に、近年急速に発展しているRiverscape genetics(河川景観遺伝学)の手法と水文モデルを用いて遺伝子流動の規定要因を推定することとした。
石狩川水系空知川・かなやま湖上流域13地点で採取したハナカジカをMIG-seq法による集団遺伝解析に供試し、集団間の遺伝的分化(GST)を算出した。次に、採取地点間を結ぶ河川ネットワークを、主要な合流点をノード(節点)、ノードを結ぶ河川区間をエッジ(枝線)とするグラフに見立て、各エッジにおける景観要素(流量、水温、傾斜、河川次数、エッジ長など)を算出した。ここで、流量・水温は、流域地質に伴う局所的な地下水流出の違いを加味した流域水循環モデルをもとに熱収支計算することで推定した。GSTと各エッジの景観要素より、BGRモデル(White et al. 2020 Ecol Appl)を構築し、各エッジの遺伝子流動の起こりやすさをモデル化・地図化した。その結果、河川次数・上-下流の方向性・傾斜・夏季水温などが遺伝子流動の強度に影響を及ぼしていることが分かり、気候変動により集団の連結性が変化する可能性が示された。