| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-020 (Poster presentation)
自然界には毒をもつ動植物を摂食し、その毒を自身の体に蓄積する“餌毒の二次利用”を行う動物が数多く存在する。しかし、この毒利用様式が生態的にどのような適応的意義をもつのかは未知な部分が多い。日本に生息するヤマカガシは、毒ガエルとして知られるヒキガエルを食べることで自身の防御用毒(頸腺毒)をつくり出し、“餌毒の二次利用”を行うヘビである。佐渡島にはヤマカガシが在来種として生息する一方、頸腺毒の毒源となるヒキガエルは生息していなかった。しかし、1964年にアズマヒキガエルが国内外来種として持ち込まれ、現在は島南西部のみに定着している。そのため、佐渡島のヤマカガシは島南西部では頸腺毒を有し、それ以外の地域では頸腺毒をもたないことが予想される。本研究では、佐渡島のヤマカガシが毒源生物ヒキガエルの侵入によりどのような生態的影響を受けているのかを明らかにするために、(1)ヒキガエルの侵入によりヤマカガシは頸腺毒を獲得しているのか、(2)毒源であるヒキガエルの有無はヤマカガシの①対捕食者行動、②栄養状態に影響を及ぼすのかの2つについて検証した。その結果、ヒキガエル未侵入地域では5個体中0個体、侵入地域では6個体中4個体で頸腺毒が検出された。また、対捕食者行動ではヒキガエル未侵入地域で逃避の頻度が多く、侵入地域では頸腺を誇示する行動が多かった。栄養状態については両地域で大きな差は検出されなかった。本研究より、頸腺システムは毒の取り込みを10万年以上行っていなかった個体群でも維持されるような形質であり、頸腺利用は対捕食者行動において適応的であることが示唆された。さらに、頸腺毒の取り込みは一般的な毒生成(自己生成)にみられるような成長阻害を強く引き起こしていない可能性がある。今後はサンプル数を増やし、本結果の信憑性を上げてゆくと共に、行動圏や食性など他の生態的特性についても調査する必要がある。