| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-022 (Poster presentation)
造礁サンゴが形成するサンゴ礁は豊かな生態系を築いており、多くの海洋生物の拠り所となっている。サンゴ類の成体の多くは固着性だが、プラヌラ幼生期にプランクトンとして海中を浮遊分散するため、海流による長距離分散が可能である。世界有数のサンゴ礁がみられる南西諸島ではサンゴ集団がパッチ状に分布するため、幼生期の浮遊分散はサンゴ集団の成立や維持、回復において重要であると考えられるが、地点間の個体の分散や集団構造についての情報は不足している。
本研究では、南西諸島に広く分布し、全ゲノム情報が利用できるコユビミドリイシ Acropora digitiferaを対象に、全ゲノムリシーケンスによって検出した一塩基多型(SNP)を用いた集団ゲノミクス解析を行った。南西諸島のほぼ全域をカバーする22地点から得られた計303個体のゲノムDNAから、ショットガンシーケンスによって平均12xのシーケンスカバレッジデータを得て、ゲノムあたり4百万以上のゲノムワイドなSNPを検出した。このゲノムワイドSNP情報を用いて集団構造解析を行なった結果、地点ごとに弱い遺伝的分化が見られた一方で、サンプリング地点の最南端に位置する西表島の2地点が、1,000 km以上離れた最北端の種子島の地点と遺伝的に近いことが明らかになった。また、個体の分散の方向性をシミュレーションによって推定した結果、黒潮の影響と考えられる北方向の分散が多い一方で、奄美大島以南の一部地点間では南方向の分散も推定され、黒潮反流などの南方向の海流もサンゴの分散に寄与していることが示唆された。さらに、地点ごとの時間軸に沿った有効集団サイズの変遷は分集団ごとに異なり、南西諸島のコユビミドリイシ集団が地域間で異なる歴史を辿ってきたことが示唆された。このような複雑な集団ダイナミクスがみられたことは、黒潮をはじめとする様々な海流や局所的な環境要因が、造礁サンゴの集団の成立や維持に強く関連していることを示唆している。