| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-023 (Poster presentation)
ニホンザリガニとヒルミミズは絶対共生の関係であり,ヒルミミズが卵から繁殖まで生活史のすべてを宿主の体表で過ごすため,進化的にも宿主の歴史を強く反映し両者の系統関係や分布パタンは一致すると予想される.しかし,ヒルミミズ種と宿主系統の分布には齟齬がある.ニホンザリガニの遺伝系統は地理的に明瞭なパタンを示し,日高山脈を境とした東西のグループは別種程に分化している.一方,北海道南部と本州北部では一部同じ系統を共有する.これに対して,ヒルミミズの種組成は,宿主のような東西での違いは見られず,本州と北海道で全く異なる.本研究ではこのような分布の齟齬が示される理由として以下の二つの仮説を立て,広域調査と遺伝解析により検証した.1)ヒルミミズには宿主に依存しない何らかの長距離分散を行うメカニズムが存在する.2) ヒルミミズが高い種多様性を保ったまま宿主と共分散した後,各地点でランダムな種の絶滅が生じた.
北海道の26地点,本州の5地点でヒルミミズ類の調査を行った.ヒルミミズは顎版形態で種同定を行い,DNAが得られた119個体でCOI領域の系統解析を行った.
形態による同定では北海道から9種,本州から5種のヒルミミズ類が得られ,一部の種は北海道と本州の両方から発見された.系統解析により,種レベルに独立したクラスターが検出され,概ね顎版形態から同定された種と対応しており,種内の系統は地域ごとに大きく分化していた.北海道の全域からサンプルの得られた一部の種において,種内の系統が日高山脈を隔てた東西で大きく分化しているなど,宿主の系統関係・分布と合致する結果が得られた.
以上の結果は仮説2を支持し,宿主との共分散が現在のヒルミミズの分布を規定する大きな要因であることを示唆する.今後,共分散後の各地点でのヒルミミズ種のランダムな絶滅について,ニホンザリガニの集団遷移やヒルミミズ同士の種間関係に注目し,調査する必要がある.