| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-024 (Poster presentation)
メタ個体群の研究の多くは、これまで安定性や持続性といったメタスケールの視点と、局所個体群の絶滅率や定着率、パッチの重要性といったパッチレベルの視点で発展してきた。しかし近年のネットワーク科学の発展により、メタスケールとパッチスケールの間のメソスケール(モジュール構造)がメタ個体群動態に大きな影響を及ぼすことがわかってきた。そこで本研究では、モジュール構造を持つメタ個体群の15世代に及ぶ長期データから、各時点のモジュールやパッチごとの重要性を評価し、モジュール構造やパッチの重要性の時間変化が生じる要因を明らかにすることを目的とする。
対象種として、コマツナギを唯一の食草としパッチの特定が容易な絶滅危惧種ミヤマシジミを扱った。本種は農地の畔や土手に生息しているため、局所個体群サイズは人為撹乱の影響を強く受けて変動する。幼虫の個体数は2018年~2021年の11世代分調べ、成虫の個体数は2017年~2021年の14世代分調べた。その個体数データと各パッチの辺縁部間の距離、移動分散パラメータをもとに連結性行列を各時点で作成し、シミュレーテッドアニーリング法によってモジュール構造を推定した。移動分散パラメータは、局所個体群サイズを目的変数、連結性指標を説明変数とする一般化線形モデルのAICをもとに探索的に予測し、最適な値を解析に用いた。パッチの重要性の指標として、モジュール内のパッチ間の繋がりの強さを表すwithin-module strengthとモジュール間の繋がりの強さを表すparticipation coefficientの2つを用いて評価した。パッチごとの面積や撹乱頻度やタイミングは野外で調べ、それらがモジュール構造やパッチの重要性の時間変化を生む要因かどうかを解析した。本発表では、この結果からどのようなパッチを優先して保全すべきについても議論する。