| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-027 (Poster presentation)
自然撹乱は、生物多様性の維持に寄与する重要なプロセスの一つである。現代の喫緊の課題とされている生態系復元の成功には、撹乱に対する生物群集の応答を理解することが不可欠である。近年、活発化する地震や豪雨によって頻発するようになってきている山腹崩壊も大きな自然撹乱の一つであるが、山腹崩壊に対する生物群集の応答ついては、明らかになっていないことが数多くある。この主たる原因として以下の点が挙げられる。1)これまでの対象分類群が主に植生であり、植物群集以外についてはほとんど明らかになっていない、2)山腹崩壊後の群集観測は、撹乱を受けた局所環境で行われるため、反復がとれず、その法則性についての一般理解が困難である。そこで我々は、これらの問題を克服するべく、前例のない大規模な山腹崩壊実験を設定し、山腹崩壊に対する昆虫群集の応答とその一般性を解明することを目的として研究を開始した。
本研究では、山腹崩壊後に形成される徘徊性昆虫群集の構造を明らかにすること、特に、1)山腹崩壊、地域、前世植生、時期(月)という要因は群集構造に影響を与えるのか、2)山腹崩壊後に種多様性は減少するのか、について明らかにすることを目的とした。
北海道大学の天塩、中川、雨龍の三研究林それぞれに、人為的に山腹崩壊を模した処理区(30m四方)を、トドマツ人工林1か所と天然林3か所、総計12か所設けた。また、各研究林の人工林と天然林それぞれ1か所に対照区を設けた。各区画には、直径7cmのピットフォールトラップを20個ずつ埋設した。調査は2021年7〜8月に行った。
その結果、群集構造には、山腹崩壊の有無、地域、時期が強く影響していた。また、山腹崩壊後群集ではγ多様性は減少せず、β多様性が増加していた。これは、山腹崩壊地に類似した環境(土場や皆伐跡地など)が広域的に点在しており、その地点間で確率的な種の移出入が迅速に生じていたためだと考えられた。