| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-028  (Poster presentation)

カミツキガメがザリガニを介して水草に与える間接効果は流速に依存して変化するのか?
Do the indirect effects of snapping turtles on submerged plants via crayfish vary with flow velocity?

*西本誠(東京大学), 宮下直(東京大学), 今津健志(元千葉県生物多様性C), 高橋洋生(自然環境研究センター), 深澤圭太(国立環境研究所)
*Makoto NISHIMOTO(Univ. Tokyo), Tadashi MIYASHITA(Univ. Tokyo), Takeshi IMAZU(Chiba Biodiv. Center), Hiroo TAKAHASHI(JWRC), Keita FUKASAWA(NIES)

生物群集の基礎的な理解を目指す群集生態学において種間相互作用の状況依存性は重要テーマの一つである。種間相互作用の強さは物理環境によって変化することが知られており、室内実験を用いた先行研究によって、そのような変化は食物網を介して間接効果の強さにも波及しうることが分かってきた。だが、野外では定量推定が難しく、その挙動は不明である。そこで、本研究では野外検証に向け、環境による種間相互作用の変化を明示的に考慮した上で生物群集の時空間動態を追う多種状態空間モデルを考案し、千葉県印旛沼水系のカミツキガメ-アメリザリガニ-水草の3者系を対象とした野外データに適用した。
 本研究ではカミツキガメ防除事業の12年分のカミツキガメとザリガニの混獲データ、衛星画像から復元した水草データを用いた。解析では、カミツキガメとザリガニの動態が河川と沼で異なることから水系の傾度を表す流速を考え、2種の間で流速と種間相互作用の交互作用項を考慮した。解析の結果、流れが緩やかなほどボトムアップ効果が弱くなることが明らかになった。この強度の空間不均一性は、カミツキガメの食性が河川から沼にかけてザリガニから植物食や死肉食傾向へとシフトすることにより生じたと考えられる。一方、トップダウン効果については流域全体で同程度の強さの効果が検出され、流速は捕食の過程にあまり影響を与えないことが示唆された。また、ザリガニから水草への負の影響は検出されたものの、上記の結果からカミツキガメがザリガニを介して水草に与える間接効果の強さは流速によらず変化しないことが示唆された。ただし、間接効果自体は検出されたため、本水系ではカミツキガメ防除後に希少な水草が減少するリスクがあり、その対策が必要となることが分かった。今回、欠測値が多いため水草を含む群集行列の推定はできなかったが、モデルを改良することで今後より詳しい群集動態が解明できるだろう。


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