| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-029 (Poster presentation)
野生動物の生息域拡大や個体数増加は、鳥獣被害の増加をもたらしている。近年、その主要な要因として耕作放棄地の増加が着目され、野生動物に採餌場やねぐら、隠れ処、移動経路として利用されていることが分かってきた。一般に、耕作放棄地に成立する植生は管理状況や放棄年数によって異なることが指摘されている。このような植生や周囲の景観の違いは野生動物による耕作放棄地の利用に影響を及ぼすことが考えられ、そのような知見は野生動物の管理上重要であると考えられるが、あまり明らかになっていない。そこで、本研究では千葉県の君津市と富津市の耕作放棄地に設置したカメラトラップから主要な害獣であるイノシシ(Sus scrofa)とニホンジカ(Cervus nippon,以下シカ)、アライグマ(Procyon lotor)の撮影回数を取得し、階層ベイズモデルを用いて各種の季節ごとの撮影回数と耕作放棄地の植生や周囲の景観との関係性を明らかにした。その結果、イノシシとシカは秋と夏にエサとなるチガヤやススキ、ミゾソバが繁茂し、植生高が低い場所をよく利用した。アライグマは秋に、植生高が低い場所をよく利用した。植生高が低い場所は草刈り頻度が高く、植物の補償成長によるエサ環境の向上が考えられた。従って、採餌場としての利用が推察された。イノシシは春に出産・子育てをするねぐらができる植生高が高い場所をよく利用した。イノシシとアライグマは春に、シカは春と夏に森林に近い場所をよく利用した。これは、出産・子育てによる警戒心の高まりによる人間活動への忌避と推察された。得られた知見から、以下の3つの管理への示唆が得られた。1つ目、種間で結果が類似していたため、管理手法によるトレードオフを考慮する必要がない。2つ目、春に草刈りを行い、イノシシがねぐらとするのを防ぐ。3つ目、採餌場として利用されないように、耕作放棄地への侵入を柵等で防ぐ。