| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-034 (Poster presentation)
食肉目において時間的ニッチ分割は他種との共存を実現する上で重要な戦略の一つとされ、種間競争によって生じることが多く報告されている。一つの仮説として、冬季における種間の食性の重複が競争の程度を高めることで、時間的ニッチ分割を促進することが知られている。一方で、冬季はエネルギー損失の少ない気象条件で複数種が同時的に活動することで、種間の時間的ニッチが重複する可能性も考えられる。競争と気象によってニッチ分割への影響の仕方が異なる可能性があるが、これらの同時評価は十分に行われていない。本研究では、アカギツネ・タヌキ・ニホンテンの時間的ニッチ分割の程度を、種間競争と気象条件の視点から明らかにすることを目的とした。
豪雪地帯に位置する山形県鶴岡市の森林地域を調査地とした。2019年2月から2021年8月の間に行ったカメラトラップ調査によって、対象種のデータ取得を行った。このデータを基に、季節ごとに種間の時間的ニッチ分割と気象条件の影響の評価を行った。種間の時間的ニッチ分割は、日周活動の重複度・1夜間の共起率・数時間スケールの回避行動に基づいて評価を行った。気象条件の影響は、1夜間の活動の有無と夜間の気温および降水量との関係を評価した。
解析の結果、冬季は3種がエネルギー損失の少ない類似した気象条件(気温が高い、降雪が少ない)で活動性が高まったことで、ほかの季節と比べて時間的ニッチの重複の促進が示された。これは3種の冬季の生存戦略として、他種との競争回避よりも気象への対応が重要であることを示唆している。また、これらの結果は冬季に時間的ニッチ分割を示した既存の仮説とは異なっており、気象の影響する大きさが食肉目の時間的ニッチ分割の程度を変化させる重要な要因であることが示唆された。時間的ニッチ分割に基づく食肉目群集の理解を深める上で、種間競争だけでなく気象条件の影響を考慮することが重要である。