| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-038 (Poster presentation)
果実は、エネルギー効率の面で優れた食物である一方で、葉や樹皮など他の植物部位と比較して存在量が少なく、存在量の季節変動も大きい。こうした果実の利用可能性(アベイラビリティ)の問題に対処することは、果実食の動物にとって普遍的な課題である。特に、複数の果実食者が同所的に生息する生物群集では、限られた果実資源をどのように食い分けるかが進化上重要な意味をもったと考えられる。
「種子食者」と呼ばれるサキ亜科の霊長類は、未熟果の種子を多く食べるというユニークな食性をもつ。この食性によってサキは果実のアベイラビリティ問題を緩和していると考えられてきたが、実際に検証した研究はほとんどなく、同所的に生息する他種との比較という観点での研究は行われてこなかった。本研究では、サキの果実利用の相対的な特徴とそのアドバンテージを明らかにするために、キンガオサキ(Pithecia chrysocephala)と、一般的な果実食者(非種子食者)であるコモンリスザル(Saimiri sciureus)の果実利用を同一環境かつ同一時期に比較した。
サキはリスザルよりも利用する果実の種数が多く、リスザルが利用しない果実種を多く利用していた。また、サキとリスザルが共通して利用する果実種に関しては、サキのほうが幅広い部位と熟度を利用するために、サキにとっての利用可能期間がリスザルよりも長かった。その結果、サキにとっての果実アベイラビリティはリスザルにとってのそれよりも常に高かった。これらの結果から、サキは、①異なる果実種を利用する、②共通の果実種をより長い期間利用するという2つのタイプの食い分けによって、非種子食者よりも、果実利用においてアドバンテージを持つことが示唆された。