| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-040  (Poster presentation)

高山性鳥類の餌資源に占める山麓から輸送される資源の重要性 【B】
The importance of resource subsidies from the montane and subalpine zones in the food resources of alpine birds 【B】

*飯島大智(千葉大・院・融), 村上正志(千葉大・院・理)
*Daichi IIJIMA(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Masashi MURAKAMI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

生態系は特性が異なる複数の環境から成りたち、隣接する環境から移動する資源は、受け手の環境に生息する消費者の餌資源を補償する。高山生態系を特徴づける高山帯は一次生産が少なく、消費者は乏しい餌資源環境の下で生活する事を強いられている。実際に高山帯で繁殖する鳥類の巣内雛は頻繁に餓死する事が報告されている。このような環境において、高山性鳥類は、残雪上に落下した昆虫を頻繁に採食する。残雪上の昆虫の多くは高山帯の周囲を取り囲む亜高山や山地帯の森林で発生し、飛翔や風により高山帯に輸送された可能性がある。しかし、残雪上に落下する昆虫の供給源は不明であり、高山性鳥類の餌資源としてこれらの昆虫の重要度を確かめた研究は見あたらない。そこで、長野県乗鞍岳(標高3026m)で2019年および2020年5月から8月にかけて高山帯と亜高山帯で昆虫類を採集した。また、高山性鳥類3種(ライチョウ、イワヒバリ、カヤクグリ)の糞を採集し塩基配列から糞の落とし主を特定し、糞中に残存するDNAからメタバーコーディング解析によって餌組成を調べた。この際に、無脊椎動物の目間のPCR増幅バイアスを補正し、リード数から餌の重要度を相対評価した。高山帯の残雪上に落下した昆虫の大半は、亜高山帯や山地帯で優占する樹木をホストとするアブラムシだった。鳥類は6月まで残雪上で頻繁に採食した。メタバーコーディング解析から、5月から8月にかけた鳥類の餌の約2割(ライチョウ16%、イワヒバリ26%、カヤクグリ27%)が山麓由来のアブラムシであることがわかった。ただし、アブラムシと同定されたリードの45%は、属や種レベルで分類群が同定されずホスト植物を特定できなかったことから、今回の結果は資源移動の重要度を過小評価しているかもしれない。これらの結果は、高山性鳥類群集が系外からの資源移動によって支えられていることを強く示唆している。


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