| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-043 (Poster presentation)
分解の生態学において、有蹄類の死体は重要な資源の供給源であるにもかかわらず、植物のリターの分解過程や分解機能ばかりが注目されてきた。しかし、哺乳類の死体は短命な資源として普遍的に供給されるものなので、消費者の個体数や群集構造に影響を与えているはずである。さらに、天然林の人工林化は腐肉分解に関わる消費者の群集構造や機能を変えているかもしれない。そこで、本実験は有蹄類死体が森林の腐食性昆虫の群集構造と土壌微生物分解活性に与える効果と人工林化がその効果に与える影響を解明することを目的とした。
北海道大学和歌山研究林内の天然林と人工林それぞれにシカの頭部設置区とコントロール区を設ける操作実験を行い、白骨化するまでの14日間を観察した。また、白骨化後の死体直下の土壌を採取し、エコプレートにより分解活性を測定した。その結果、腐食性昆虫群集はシカ設置区にのみに誘引された。しかし、天然林と人工林で種数や個体数に差が無かった。土壌微生物群集については、天然林土壌はシカ設置区とコントロール区の間で分解活性の差が小さかったのに対して、人工林土壌はシカ設置区の方がコントロール区よりも分解活性が顕著に高かった。
腐食性昆虫はシカ頭部の周辺でしか見られず、動物の死骸に集中して集まっていた。また、腐食性昆虫の多様性が森林タイプに依存しないのは、点在する腐肉間を移動する能力に優れていると考えられる。土壌微生物群集は、腐肉の資源によって分解活性が上昇した。また、その効果は天然林に比べ人工林で大きく受ける。天然林土壌の分解活性があまり変化しなかったのは、土壌中の微生物多様性が資源パルスの攪乱の影響を緩和した可能性が考えられる。人工林化に伴う腐肉食性昆虫への影響はあまり大きくないが、土壌微生物群集への影響は大きいことを本研究は示唆している。