| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-045  (Poster presentation)

ゲノムスケール代謝モデルを交えた種組成変化パターンの考察
Consideration of patterns of community dynamics with genome-scale metabolic modeling

*林息吹(京都大学)
*Ibuki HAYASHI(Kyoto Univ.)

群集における種組成の遷移パターンがどのように形作られるか,これらは生態学における中心的テーマの1つである.実際,2・3種などのシステムはよく研究が進んでおり,ロトカヴォルテラ競争方程式をはじめとする一般性の高いモデルで微生物群集動態が説明されている.一方で,より実際に近い多種系では実験・理論ともに検討が不十分で,動態を説明する理論の構築に対して多くの探索の余地が残されている.

多種間の相互作用を考える上で,近年,微生物群集の種構成を決めるメカニズムに,種間での代謝産物の交換(cross feeding)が実験・理論両面から注目されている.一見単純な培地によって実現された多種の共存パターンは,cross feedingを含んだ代謝産物を介する種間相互作用の重要性を検討する良い題材であると考えられる.

今回,土壌由来の同一な細菌群集を多数の反復を設けた複数の異なる単純な培地に接種し,NGSを用いて種組成の経過を網羅的に観察した.その結果,培地ごとに異なる様々な遷移パターンが観察された.グルコース濃度の高低を異にした系間の考察では,資源の有無のみで行われた解釈が多種系においては不十分である事が示唆された.一方,複数の条件下では,条件の同一性にも関わらず全く異なった群集に遷移した.同一な状態が異なる状態に遷移する現象は,代替状態(alternative states)と呼ばれており,本システムの背景にも,確率的なモデルやカオスによって説明される事象が含まれている可能性がある.

また,これらは比較的単純な資源の差に起因する結果であり,ある単一のモデルがこれらの多様な結末を予測する可能性を秘めている.本発表においては,ゲノムスケール代謝モデルを用いたパラメータ推定を前提とした,上結果を包括的に説明するようなモデル構築が可能であるかを,展望として考察した.


日本生態学会