| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-048 (Poster presentation)
オサムシ科甲虫は環境指標生物として注目されるが、環境評価の基盤となる各種の環境嗜好性(生育環境の好み)は特定の地域だけでの定性的評価がほとんどであり、複数地域のデータを統合した定量的評価はまだあまりなされていない。そこで本研究では、本州および佐渡島の針葉樹林、広葉樹林、草地環境のいずれか2環境以上で比較調査がなされた学術論文14編のデータに注目し、メタ解析を行うことで、各種の環境嗜好性について定量的評価を行った。具体的には、3編以上の論文で調査記録のある種を対象とし、各環境ペア間で採集された平均個体数比の対数として計算される対数応答比LRRを用いることで、3環境総当たりでの環境嗜好性の評価を行った。
解析の結果、オサムシ科甲虫3亜科7族16属44種について環境嗜好性を評価できた(環境ペアごとでは広葉樹林/草地で41種、針葉樹林/草地で5種、針葉樹林/広葉樹林で18種)。広葉樹林/草地では、8種で統計的に有意な広葉樹林嗜好性が、15種で有意な草地嗜好性が検出された。一方、針葉樹林/草地、針葉樹林/広葉樹林の環境ペアでは、どの種でも有意な環境嗜好性が検出されなかった。これらの結果は、オサムシ科甲虫にとって、広葉樹林と草地という環境間の違いの影響が特に大きいことを示唆している。
これらの結果を統合し、環境評価に使いやすい指標種として、草地環境を嗜好する4種(マルガタゴミムシなど)、広葉樹林環境を嗜好する5種(クロツヤヒラタゴミムシなど)を挙げた。これらの種に着目することでより信頼性の高い環境評価が可能になると思われる。一方、環境への応答が研究間で矛盾し、少なくとも広葉樹林や針葉樹林、草地という環境では環境嗜好性が検出されなかった種として5種を挙げた。これらは、地域や微環境によって見かけの嗜好性が大きく変動する恐れがあり、環境評価を行う上で扱いに注意すべき種と思われる。