| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-050  (Poster presentation)

種数-面積関係の形成機構を探る:渓流の小パッチにおける底生動物種数
Disentangling the mechanisms underlying the species-area relationship: macroinvertebrate species richness of stream litter patches

*山本磨慧, 太刀掛脩平, 加賀谷隆(東京大学)
*Masatoshi YAMAMOTO, Shuhei TACHIKAKE, Takashi KAGAYA(The University of Tokyo)

生物の種数-面積関係(SAR)は,正の関係(S = cAzz>0,S:種数,A:生息地面積)を示す場合が多く,正のSARの形成機構として様々な仮説が提唱されてきた。森林渓流では,渓畔から流入した落葉枝が,河床地形や水流の不均質性により数100cm2から10数m2のパッチ状に堆積し,これらの小パッチには多様な底生動物種が生息する。本研究では,山地渓流のリターパッチに生息する底生動物のSARを明らかにし,その形成機構に関する5仮説に基づく予測を検証した。パッチ移出入がSAR形成に関わるプロセスを検討する上で,小パッチ間を高頻度で移動する底生動物は好適な対象である。多摩川上流域の河床勾配が異なる4渓流において,様々な季節に大小のリターパッチから底生動物を同一面積のリターバッグを用いて採取し,パッチ環境を評価した。4渓流のいずれにおいても,底生動物のSARは正でS = cAz式に適合し,予測の検証結果はすべて一致した。正のSARには,パッチの生息環境や食物資源の多様性(水深の不均質性,パッチ内のβ多様度,捕食者種数に対する被食者種数)の寄与が認められ,habitat diversity仮説の予測は支持された。捕食者種と被食者種のzは,個体のパッチ移入が面積に左右されにくい高勾配渓流で小さく,passive sampling仮説の予測は支持された。希釈化種数ではS = cAz式の適合度は弱まり,random placement仮説の予測は支持された。パッチ内の一定面積におけるα多様度はパッチ面積と正の関係を示さず,種の存続確率が関わるarea per se仮説の予測は支持されなかった。面積と相関するパッチ環境の効果はパッチ面積よりも弱く,疑似相関仮説の予測は支持されなかった。以上の結果より,山地渓流のリターパッチにおける底生動物の正のSARは一般性の高い現象であると推測される。


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