| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-051 (Poster presentation)
近年、害虫防除のために使用されている水稲用殺虫剤は神経伝達や筋収縮といった生物普遍的な生理機構に作用し、殺虫効果を発揮するものが多い。それ故、殺虫剤の影響は標的害虫に限らず多様な生物に及ぶ可能性があり、実際に標的外生物に対する様々な負の影響が報告されている。このような現状から、高い生物多様性を有する水田において、殺虫剤が水田生物群集に及ぼす影響を把握することは喫緊の課題といえる。そこで本研究は、水田メソコスム(水田環境を模した実験系)を用いて、現在、わが国の主要な殺虫剤であるネオニコチノイド系殺虫剤クロチアニジンおよびジアミド系殺虫剤クロラントラニリプロールの3年間連続施用が、水田生物群集に与える影響を明らかにすることを目的とした。
調査については、3年間同様のスケジュールで、各処理区から水生生物、植物、水、土壌および有機物を定期的に既定の区画から採取した。採取された水生生物は、実体顕微鏡を用いて生物種を同定するとともに個体数をカウントした。PRC(Principal Response Curves)解析の結果、調査対象としたいずれの生物群集(動物プランクトン群集、ベントス群集、大型水生生物群集)の組成においても、対照区と2つの殺虫剤処理区の間に有意差が認められた。クロチアニジン処理区では特にイトミミズ類の個体数が大幅に減少し、クロラントラニリプロール処理区では特にカイミジンコ目の顕著な個体数減少が確認された。また、群集組成に対する殺虫剤の影響を年度間で比較すると、両剤処理区の動物プランクトン群集および大型水生生物群集において、対照区との組成の差が経時的に増大する傾向が認められた。本公演では、群集組成に対する殺虫剤影響の発生プロセスを安定同位体比分析、環境中および生物中の殺虫剤濃度測定の結果を交え議論する。