| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-052  (Poster presentation)

病原体スピルオーバーがもたらす感染症の流行拡大を制御する要因
Control of intra-species outbreaks following pathogen spillover from natural reservoirs

*白川遥大, 瀧本岳(東京大学)
*Harumasa SHIRAKAWA, Gaku TAKIMOTO(Univ. of Tokyo)

新興感染症対策は、人の健康だけでなく動物の管理保全の面でも重要である。新興感染症の多くは、病原体を元々持つ生物種(保有宿主)から新たな宿主種への感染(スピルオーバー)により発生し、新宿主間でも流行する。従って対策には、新宿主間感染だけでなくスピルオーバーの制御も含めた複数の策を考慮すべきである。しかし、異なる制御策が感染流行の抑制に与える影響を比較した理論的枠組みは少ない。
本研究は、保有宿主−病原体−新宿主間の数理モデルを用いて、複数の制御策の効果を検討した。保有宿主の排出する病原体が周辺環境を汚染し、環境中病原体からスピルオーバーが起きる感染症(ニパウイルス感染症等)をモデル化した。感染経路は、保有宿主からのスピルオーバーと新宿主間感染の2つを考慮した。感染新宿主が増え、その隔離処分が一定限界を超えた状態をアウトブレイクとした。制御策には、治療薬の開発(新宿主の回復率向上)、隔離処分の能力の引き上げ、病原体の環境混入の防止などを想定した。
新宿主の行動特性等に由来する新宿主間感染の強さと保有宿主の個体数に由来するスピルオーバーの強さがアウトブレイク発生に与える影響を数値解析した。一方の感染経路だけではアウトブレイクが生じない場合でも、他方の感染経路が十分強ければアウトブレイクが発生した。この時、感染経路が弱まってもアウトブレイクが続く履歴効果の存在も確認された。また、異なる制御策は異なる効果を有した。しかし、多くの制御策には、激しいスピルオーバーによる感染増大の抑制効果は強いが、新宿主間感染の抑制効果は弱いという傾向があった。
本研究は、スピルオーバーと新宿主間感染が相補的にアウトブレイクをもたらす点、アウトブレイクは履歴効果を持つ場合があり収束に多大な努力を要する点、行動変容等による新宿主間感染の防止体制と合わせることで制御策が強い有効性を発揮する点、の3点を明らかにした。


日本生態学会