| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-055 (Poster presentation)
生息地間の接続性の時間変化が群集集合に与える影響の解明は、生態学の主要な課題である。河川における先行研究は、洪水が接続性の改善を通じて分散制限を緩和し、水生生物の群集集合を時間的に変化させうると示してきた。しかし、主な実証研究は、自然度が高い熱帯河川や間欠河川の季節的な流量変化に限られている。本研究は、温帯の水田景観において、短期間の洪水と接続性が魚類の群集集合に与える影響を明らかにした。
福井県の北川流域に設けた16か所の調査地点で、豪雨による短期間の洪水前に1回と洪水後に6回、水田水路の魚類群集を調査した。水路と下流で接続する河川との合流部の段差の有無に基づき、Connect(常に段差がない)とTransient(洪水中のみ段差がない)、Disconnect(常に段差がある)という3つの接続性タイプに調査地点を分類した。
水田から水路に移動できる唯一の種であるドジョウの個体数は、全ての接続性タイプで洪水直後に増加し、時間経過とともに減少した。一方、ドジョウ以外の魚種の総個体数は、Transientの地点でのみ有意に増加した。各地点の連続する2回の調査における種組成の変化をBray-Curtis非類似度に基づいて計算した結果、ConnectとDisconnectの地点では一貫して低かった一方、Transientの地点では洪水直後に大きく、徐々に低下するという有意な時間変化があった。さらに、PERMANOVAによって接続性タイプ間で各地点の種組成が有意に異なることが示された。
短期間の洪水は、水田から水路への排水を増加させドジョウの移動を促すと同時に、水路と河川の合流部の段差を一時的に解消して魚類の移動を促したと考えられる。また、分散制限が顕著に緩和された地点の種組成は、mass effectにより一時的に大きく変化した後、水路内での環境フィルタリングを経て決まっていたと考えられる。さらに、平常時の接続性のみが異なるConnectとTransientの地点の種組成が異なっていたことから、生活史の上で恒常的な接続性を必要とする種がいたと考えられる。