| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-057  (Poster presentation)

日本産コウモリ類の分布推定と将来予測
Estimating the distribution of Japanese bats and predicting future changes

*三宮望, 牧貴大, 平尾聡秀, 福井大(東京大学)
*Nozomi SANNOMIYA, Takahiro MAKI, Toshisada HIRAO, Dai FUKUI(Tokyo Univ.)

近年、気候変動が生物多様性に与える影響が懸念されている。気候変動に対する生物の応答は種特有の形質にも影響されるため、気候変動が種の分布に及ぼす潜在的な影響を定量化することは生物多様性の効果的な保全戦略を策定するためにも重要である。特に、種の生息情報とその場所の環境情報を関連づける種分布モデルは重要な手段となりうる。
哺乳類の中で2番目に多様性が高いコウモリ類は、多くの種で絶滅が懸念されている分類群である。日本では近年になり生息記録の集積が進んでいるものの、情報の統合が不十分なために保全対策に生かされていない。そこで、本研究では日本産コウモリ類の生息記録を統合し、客観的なモデルに基づく分布推定と、それを基にした将来の温暖化の影響の定量化を目的とした。
本研究では、まず日本産コウモリ全35種に関する過去の文献や報告書から生息位置情報を抽出した。次いで、約1kmメッシュ粒度の環境変数を使用し、北海道から悪石島までの島嶼域を除いた日本列島に分布する24種を対象としてMaxEntを用いた種分布モデルを得た。また、気候予測の1つであるCNRM-CM6-1のSSP245シナリオの2080~2100年における気候に関する変数を用いて、温暖化に伴う潜在生息適地の変化を予測し、その変化率を求めた。その結果、22種において妥当な分布モデルが得られた。温暖化に伴い13種の潜在生息適地が減少し、5種はほぼ変化せず、4種は増加した。減少した種のうち8種は変化率が-50%を下回った。このように、温暖化に対する反応は種特異的であり、その要因として日本のコウモリ類は分布が拡大してきたルートが北方・南方・朝鮮半島と異なることが考えられた。また、温暖化に伴い生息適地面積が大きく減少すると予想される種のうち5種は環境省レッドリスト未掲載種であったことから、今後、種の絶滅リスク評価の際に温暖化に対する応答を考慮する必要性が示唆された。


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