| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-059  (Poster presentation)

農薬曝露と田面水温上昇が水田生物群集に与える影響は経時的に変化するか?
Do impact of pesticide and warming in paddy water on experimental biocenosis change with time ?

*石若直人(近大院,農), 橋本洸哉(国立環境研究所), 角谷拓(国立環境研究所), 早坂大亮(近大,農)
*Naoto ISHIWAKA(Grad sch agric, Kindai Univ.), Koya HASHIMOTO(NIES), Taku KADOYA(NIES), Daisuke HAYASAKA(Fac Agric , Kindai Univ.)

水田生態系の保全を考える上で,農薬の生態影響の理解は欠かせない.一方で,近年の温暖化の進行から,今後,農薬と温度上昇が水田生態系に複合的に作用する可能性が懸念される.先行研究から,水温上昇下で農薬の毒性が変化するとの知見が集積されつつあるが,野外における生物群集を対象に影響評価を行った事例は未だ乏しい.特に生物の多くは季節性を有しており,野外の生物群集の組成は年間を通じて移り変わることを考慮すると,両要因が群集におよぼす影響は経時的に変化しうる.そこで本発表では,人工生態系(メソコスム)に4つの処理(無処理:C,農薬単独処理:F,加温単独処理:W,農薬・加温複合処理:FW)を施し,水田内の生物群集の時系列変化を比較した結果について報告する.群集解析の結果,F区の組成は時間経過にともないC区の組成に近似する傾向にあったが,FW区の組成は試験を通じて,一貫してCとは異なった.一方,W区の組成は,時間経過にともないC区から乖離していく傾向にあった. FW区では農薬の影響が減少した後も加温の影響が続くことで,群集への影響が長期化したと考えられた.また,捕食者の発生消長に着目すると,農薬の影響を受ける分類群が試験期間前半に,温度上昇の影響を受ける分類群が後半にそれぞれ出現した.捕食者に対する影響は捕食-被食関係で結ばれた他の生物にも波及することから,FW区の群集影響の長期化には,生物間相互作用を介した複雑な影響も関与している可能性が示唆される.今後,生物間相互作用を考慮した解析を進めることで,両影響要因がもたらす生物群集への影響のプロセスの解明が期待される.


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