| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-061 (Poster presentation)
共生細菌叢は生物の体表・体内に生息する共生細菌の集団であり,共生部位によって宿主の免疫や成長などの適応度に関わる形質に寄与することが多くの研究で指摘されている.Daphnia属(ミジンコ属)においても,無菌状態すると産卵数の減少や死亡率の上昇がみられるだけでなく,特定の細菌の存在が成長を促進するなど,共生細菌叢の重要性が示されている.しかし,Daphnia属を含め,共生細菌叢のタクサ組成に宿主の遺伝要因と生息環境要因のどちら重要であるかについては必ずしも明らかでない.
日本には,遺伝的に異なる複数のDaphnia cf. pulex sensu Hebert (以下D. pulex)が生息しており,そのうちの2系統(JPN1およびJPN2)では日本に侵入後に複数の遺伝子型が分化している.いずれの系統も雌のみで繁殖を行う絶対単為生殖型である.演者らはこれまでの研究において, D. pulexが遺伝子型間のみならず系統間においても,共生細菌叢の構成が異なることを明らかにしてきた(ESJ68).つまり,D. pulexの共生細菌叢は宿主の遺伝的な影響受けているという事実に加えて,その影響というのが宿主の系統関係による制約を受けていることを示唆した.しかし,その実験では室内で個別に継代飼育されていた個体を使用していたため,飼育容器ごとの環境の違いが系統間での共生細菌叢の違いに影響を及ぼしている可能性があった.
そこで本研究では,D. pulex JPN1系統とJPN2系統に含まれる計4つの遺伝子型を対象に,ペアワイズで同所的に飼育し,16s rRNA領域を用いたメタゲノム解析により共生細菌叢の変化を調べた。得られた結果から,D. pulexの共生細菌叢が,遺伝的にどの程度宿主系統の制約を受けているのか議論する.