| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-063 (Poster presentation)
社会性昆虫は進化の過程において血縁個体で協力して狩りや防衛を行い,繁殖成功度や採餌効率,捕食者に対する防御力を高めた一方,生活の中で生み出される大量の排泄物や死体に付着した病原体の拡散を促進する側面があると考えられている.ネクロフォレシスとは,主にアリ類とミツバチ類,スズメバチ類において観察される,巣内の仲間の死体を巣外へ除去する行動で,感染症を防ぐために行われる衛生行動の1つと考えられている.実際に,ネクロフォレシスによって巣仲間の生存率が上昇することも確かめられており,ネクロフォレシスは適応的な行動と言える.しかし,アリ類の多くは地上で活動するため,除去した死体の位置によっては外役中の個体が接触する可能性が高まる.したがって,アリ類の衛生管理にとって死体を除去する場所は重要になると考えられる.本研究では,死体除去場所の決定要因を明らかにすることを目的として,クロヤマアリを用い,風が一方向に吹く環境において死体は風下に除去されやすくなるのか,また,死後経過時間が長い死体はより遠くに除去されるのかを調査した.実験の結果,一方向の風の有無は風下への除去率に有意な影響を与えなかった.これは,クロヤマアリが死体除去場所の決定要因として風向きを利用しない可能性を示唆する.また,死後経過時間が短い死体は長い死体よりも有意に巣から遠くに除去され,総除去率が高かった.これは,今回実験で用いた死後経過時間が短い死体の方が長い死体よりもコロニーにとって危険であったことを示唆する.本研究は,クロヤマアリにおいて一方向に吹く風が存在しても死体除去場所には影響しないこと,また,コロニーにとってより危険な死体はより遠くへ除去されることを示した.