| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-067  (Poster presentation)

内温性魚類はなぜ速い?尾びれ振動頻度とストライド長の種間比較
Why are endothermic fishes fast? Comparative analyses of tail-beat frequency and stride length

*徳永壮真(総合研究大学院大学), Nicholas PAYNE(Trinity College Dublin), 河邊玲(長大海セ), 中村乙水(長大海セ), 古川誠志郎(水研機構・水産資源研), 渡辺佑基(総合研究大学院大学, 国立極地研究所)
*Soma TOKUNAGA(SOKENDAI), Nicholas PAYNE(Trinity College Dublin), Ryo KAWABE(ECSER, Nagasaki Univ.), Itsumi NAKAMURA(ECSER, Nagasaki Univ.), Seishiro FURUKAWA(Japan. Fish. Res. Educ. Agcy.), Yuuki Y WATANABE(SOKENDAI, NIPR)

 海中を広範囲に泳いで食物を探す魚類では、遊泳速度によって単位時間当たりの探索範囲や移動距離が決まる。高い体温を保つ内温性のマグロ類と一部のサメ類は、外温性魚類に比べて巡航遊泳速度が速いことが過去の研究で示された。しかし、それを可能にする運動力学的メカニズムは不明である。本研究では、遊泳中の尾びれ振動頻度とストライド長(一回の尾びれの振動で進む距離)に注目し、内温性魚類がどのように速く泳ぐのか、また内温性のマグロ類とサメ類の間にはどのような違いがあるのかを調べた。
 国内外の共同研究者の協力を得て、バイオロギングの手法で計測された巡航遊泳速度、卓越尾びれ振動頻度、ストライド長、経験水温のデータを魚類18種(うち5種は内温性魚類)から集めた。系統関係の影響を考慮する統計手法を用い、遊泳速度、尾びれ振動頻度、ストライド長を決める要因をモデル選択によって特定した。説明変数として、体サイズ、水温、内温性の有無(18種全ての解析の場合)、マグロ類かサメ類か(内温性魚類のみの解析の場合)を考慮した。
 外温性魚類に比べ、内温性魚類は巡航遊泳速度が速く、尾びれ振動頻度が高かったが、ストライド長には差がなかった。内温性の5種を比較すると、マグロ類とサメ類の間で遊泳速度には差がなかった。尾びれ振動頻度はマグロの方が内温性のサメよりも1.9倍高く、逆にストライド長は内温性のサメの方がマグロよりも2.5倍長かった。
 本研究により、内温性魚類が外温性魚類よりも速く泳ぐのは、主に高い尾びれ振動頻度に起因することが明らかになった。しかし、同じ内温性魚類でも、マグロ類とサメ類の間には違いがあった。マグロ類は尾びれ振動頻度がとりわけ高いのに対し、内温性のサメ類はストライド長が特に長かった。こうした違いは、尾びれの振幅や面積、筋肉と椎体をつなぐ腱の有無等、運動学的な違いや形態的な違いに起因すると考えられた。


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