| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-068  (Poster presentation)

野ネズミは餌の位置を覚えるのか?-アカネズミとエゾヤチネズミの空間記憶の比較-
Do rodents memorize food location?:comparison of spatial memory between Apodemus speciosus and Myodes rufocanus

*菊地孝介(北海道大学環境科学院), 揚妻直樹(北海道大学 FSC)
*Kosuke KIKUCHI(Hokkaido Univ.), Naoki AGETSUMA(FSC,Hokkaido Univ.)

一部の野生動物は、餌を効率的に獲得するために、餌があった場所を覚えていることができる。この空間記憶能力には種差があることが主に霊長類を対象とした研究で示めされているが、種差が生じる要因については不明な点が多い。様々な種を対象に空間記憶能力の種差に関する知見を蓄積することで、この能力の獲得に関わる要因を明らかにする必要がある。齧歯目は哺乳類の中で最も種数が多い分類群であるにも関わらず、これまで野生種間において空間記憶を種間比較した研究はごく限られてきた。本研究では、北海道に同所的に生息する種子食性のアカネズミと繊維食性のエゾヤチネズミの空間記憶能力の種差を検討する。北海道大学・苫小牧研究林で捕獲した両種を十字型の迷路(1つのアームは巣箱を置く巣箱アーム、残りの3つは餌を設置する探索アーム)に導入し、地中の餌探索実験を行った。その結果、アカネズミは、過去に餌があった位置を再訪問する割合が高く、実験を繰り返すことで餌獲得までの時間や餌のないアームへの訪問回数(失敗回数)が減少したことから、空間記憶を利用して効率良く餌を探索していると考えられた。一方、エゾヤチネズミは過去に餌があった位置を訪問する割合が低く、実験を繰り返しても餌獲得までの時間や失敗回数に変化はみられなかった。これらのことからアカネズミはエゾヤチネズミと比較して、空間記憶能力がより高いことが示めされた。空間記憶能力に種差が生じた要因として、アカネズミは餌が生息地内にパッチ状に分布する種子を主に採食し、さらに地中に貯食を行う一方、エゾヤチネズミは餌が一様に分布する葉や茎などを主に採食し、貯食もしないことが考えられる。こうした採食生態の違いが空間記憶の発達に関係している可能性が示唆された。


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