| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-071 (Poster presentation)
ウミガメ類は肺呼吸の爬虫類であり、1日の大部分を潜水して過ごす。多くの場合、ある深度まで潜降した後、その深度に一定時間留まり、その後呼吸のために浮上するといった潜水様式を取る。この一定深度に留まるのが中層であれば中性浮力状態、海底であれば負の浮力状態であることが先行研究で分かっている。ウミガメの浮力と保有酸素量の多くは肺内の空気に依存している。つまり、長い潜水を行うには肺に多く空気を吸い込む必要があるが、その分浮力が大きくなり浅い深度に留まることが困難になるというジレンマを抱えている。このように、ウミガメの肺内の空気量に左右される体密度と潜水様式は密接に関わり合っていると言える。そこで本研究では、亜成体のアカウミガメ(Caretta caretta)及びアオウミガメ(Chelonia mydas)を対象に、人為的に体密度を変化させて、空気量と潜水様式の関係を調べた。
定置網で混獲された野生個体を用いて水槽実験を行った。アカウミガメ4個体、アオウミガメ1個体の背甲にそれぞれ体重の2.8%~7%に相当するウエイトを接着し、同様に背甲に接着した行動記録ロガー(リトルレオナルド社製、日本)を用いて潜水様式を記録して、ウエイト装着の前後で潜水時間にどのような変化が現れるかを比較した。
アカウミガメとアオウミガメ共にウエイトを装着することによって夜間の潜水時間が長くなることが分かった。夜間の潜水時間の増加量は装着したウエイトの大きさと正の相関を示したことから、ウミガメ類は体密度の変化に応じて吸気量を変化させる可能性が示唆された。これは、夜間に休息のために水深の浅い水槽の底で長時間滞在したいウミガメにとって、ウエイトが装着されると、通常より多くの空気を吸い込んでも中性ないし負の浮力状態を保つことが可能になり、保有酸素量が多くなったことにより潜水時間が伸びた可能性が考えられる。